3.ダンジョン下層で、見えたもの。
「さすがに、ダンジョン下層になってくると魔物も手強いね」
「そうは言いながら、師匠の息は乱れていませんね……?」
「だって『アタシのヘリオス』だもん!」
「違うけどね……?」
――ダンジョン下層。
そこには今までよりも、明らかに強い魔物が揃っていた。
アンデッドの王と呼ばれるレライエを始めとして、ダイヤモンドゴーレムやベヒモスなど、魔素が濃い場所でしか生存できないものばかりだ。幸いなことにミクリアの加護があるボクは、対等以上に渡り合えている。
リュカさんにとっては少し厳しい戦いになっているようだが、戻るように言っても聞こうとはしない。それにここまできたら、ダンジョン最奥は目前だ。
「それまで、なにも問題なく進めれば良いけど……」
ここで引き返した方が、かえって危険かもしれない。
先日のヒュドラの一件もあるし、どうにも魔物たちの動きがおかしいように思われた。ヒュドラとは本来、下層以降に潜在し、単独行動を取る毒蛇だからだ。
なにかしら、異変が起きている。
冒険者になって間もないボクでも、そのことは察知できていた。
「それにしても、やっぱり魔素が濃い――――ん?」
そして、桁違いの魔素に思わず言葉が口をついて出た時だ。
「どうかしました? 師匠」
「え、あ……ううん、なんでもない」
なにか、視界の端で動いたような気がしたのは。
あれは魔物ではない。どちらかといえば人間のようであり、さらには幼い子供でもあったように思われた。しかし、ここはダンジョンの下層だ。
ミクリアのような存在は例外として、おおよそ人間の子供が立ち入れる場所ではない。ともなれば、ボクの視界に入ったものは……?
「気のせい、かな……」
――いや、そうに違いない。
そうでなければ、あまりにも状況がおかしすぎる。
ボクは少しだけ止まっていた足を動かしながら、そう考えることにした。
◆
「……あれが、ニンゲン、か」
だが、ヘリオスの考えとは裏腹に。
彼らの背中を見て、そう呟く人影があった。
声変わりすらしていないのだろう。幼く、男女のそれも区別できないほどの人物は、岩場の陰からそっと気配を消してヘリオスたちの背中を見送っている。
そして左右で色の異なる瞳に好奇を宿らせ、輝かせていた。
「お爺ちゃんに、報告しないと……!」
そんな彼は、居ても立っても居られない、といった様子で。
何度かその場で足踏みをした後に、ヘリオスたちとは別方向へと駆け出すのだった。その足取りはとても慣れたものであり、まるで踊っているようにも思える。
「ねぇ、キミはどう思う? アリュシオ」
「キュウ?」
そんな子供の肩に乗ったのは、小さなドラゴンの子供。
アリュシオと呼ばれたその竜は、小首を傾げて相手のことを見ていた。
「ぼく、トモダチになれるかな……?」
返事はない。
それでも駆ける人影は、そう言うのだった。




