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翌日、私は役所で賃貸物件の紹介をお願いした。
マンスリーは1ヶ月未満の人向けで物件数が少ないため、長期間であるなら普通に物件を借りた方がいいそうだ。
初期費用のかからない物件が多くあるそうで、数件の物件の見学を行った。
その中の一つでアークシィ家にも近く、賃料もそこそこの物件があったので、そこを契約することにした。
家具などが一揃い揃っており、今日からでも住める状態ではあるが、書類の審査などがあるらしく、最短でも3日後になるらしい。
書類などを記入し手続きが終わったのは昼前だったので、私は喫茶ボンで昼食を取ることにした。
「こんにちは」
「あ、アズサさん。いらっしゃい。 カーティもいるよ、一緒の席にする?」
「はい! 是非」
喫茶ボンではリリィさんが笑顔で向かい入れてくれ、カーティさんのいる奥の席へ案内してくれた。
数人のお客さんがおり、リリィさんは忙しそうに給仕をしていた。
「カーティさん、こんにちわ」
「アズサ! 会えて嬉しいわ。 昨日、ガイランクとデートに行ったんだって? 話を聞かせてもらおうじゃない」
「うっ、どこで聞いたんですか」
「本人が言ってたのよ」
根掘り葉掘り聞いてくるカーティさんに、私は昨日の出来事を洗いざらい話したのであった。
カーティさんはとても楽しそうであった。
ランチも食べ終え午後から一仕事探そうかなと、ギルドに行くのにカーティさんも一緒に行こうと話をしている時であった。
喫茶ボンにヤンクルさんが入って来たのだ。
なにやら緊張した面持ちのヤンクルさんは、カーティさんを見つけるとずんずんと近づいて来た。
「カーティ! これを受けっとって欲しいんだ」
片膝をついたヤンクルさんが懐から小さな小箱を開けて、カーティさんの前へ差し出した。
不安げにカーティさんを見つめるヤンクルさん。
カーティさんは、そんなヤンクルさんに頬を染めながら、箱の中を見て固まった。
「だ、だれが受け取るか!」
カーティさんは叫び、ヤンクルさんをポツンと残して、店から出て言ったしまった。
私は、ポツンと残ったヤンクルさんの手元にある、小箱をのぞいた。
「あっ」
カーティさんの大嫌いな月下水宝玉があしらわれた指輪であった。
これが宝石のない指輪や別の宝石があしらわれた指輪であったら、カーティさんは頷いていただろう。
なんならプロポーズが成功したことになり、結婚秒読みの幸せ空間になっていただろう。
それが正反対の空気になってしまったのは、この宝石のせいである。
少し、責任を感じてしまった私は、未だ同じポーズで固まっているヤンクルさんを先ほどまでカーティさんが座っていた席に座るように促した。
「ヤンクルさん、非常に良い辛いですが、その宝石が原因ですよ」
「宝石が、かい? 一般的なものだったのだが、一点物を用意すべきだったのかい?」
「いえ、実は、その宝石の正体がですね、問題でして」
ヤンクルさんに私は、その宝石の正体となぜカーティさんが嫌がったのかを説明した。
ヤンクルさんは悲痛な表情を見せながら、手元の指輪を見た。
「僕は、なにをやってもダメなんだ⋯⋯」
私はシオシオにしょげてるヤンクルさんを頑張って慰めてみるが、上手くはいかない。
「あの、ヤンクル。ごめん、突然逃げちゃって」
困っていると飛び出して行ったカーティさんが戻ってきてくれた。紅潮した顔でヤンクルさんと対面する。
ヤンクルさんは顔を上げカーティさんを見上げる。
「私、気持ちはとても嬉しい。気持ちは嬉しいんだけど、やっぱりそれは受け取れない」
「アズサさんから聞いたんだ。カーティ、別の指輪用意するから、そっちを受け取ってくれないかい?」
ヤンクルさんはショゲショゲしたままカーティさんに問う。
カーティさんは顔を真っ赤にしながら頷く。
「もちろんよ!」
一件落着に収まった2人は仲良く宝石店に行くらしい。
私は2人を祝福しながら見送り、ギルドへ行く事にした。
告白かっ飛ばしてプロポーズとはヤンクルさんもなかなかやるなと感心していた。
ギルドの前まで来て入ろうとすると、カーティさんが全速力でやってきて、私の腕を掴んだ。
「アズサ!助けて」
あまりの剣幕に私はカーティさんになにかあったのかと身構えたのだが、他の宝石もそうなのでないかと不安で選べなくて困っているそうだ。
「アズサ、他の宝石も調べてよ」
泣きついてくるカーティさんを慰め、私はカーティさんと一緒に宝石店へ向かった。
ヤンクルさんとの甘い空間に入るのは忍びないが、カーティさんに頼られるのはとても嬉しいのだ。
「ごめんヤンクル! ちゃんと選ぶから」
私は宝石店でカーティさんが選んだ数点の宝石の解析を行った。
「大丈夫!全部鉱石だよ」
私の言葉に安心したカーティさんは、その中の1つホワイトラビットヘアールチルクォーツを選んだ。
まるでふわふわとしたウサギの毛が中に閉じ込められてるかのような真っ白な宝石で、そんな宝石をシンプルにはめ込んだ指輪がカーティさんの指によく似合っていた。
ヤンクルの髪色とお揃いで素敵!と、幸せそうに笑うカーティさんと、そんなカーティさんを微笑ましく見ているヤンクルさん。
熱々な2人を置いて、私は再度ギルドへ向かおうとしたが、時間も時間なので、少し散歩しながら町を探索する事にした。
「よっ!」
カーティさんたちにあてられたからか、別の宝石店を何店かまわっていた私の前にガイランクさんが現れた。
「あいつらやっとくっついたんだってな」
「よくご存知で」
ガイランクさんに誘われて、私たちは近くにあった喫茶店へと入った。
ガイランクさんが詳しく知りたいとのことだったので、ことの成り行きを掻い摘んで説明すると、ガイランクさんは大爆笑してしまった。
「あいつ、俺に相談でもしてくれりゃ教えてやれたのに」
一見ヤンクルさんを思ってのセリフに聞こえるが、大爆笑が治らないため、ただ面白がっているようにしか思えなかった。
ガイランクさんはちょうど仕事だったらしく、面白い現場が見れなくて残念だと漏らしていた。
やはり面白がっているようだ。
「にしても、ちょっと前まで、種族がー掟がーから抜け出せなかったやつが、急にプロポーズとはな」
ひとしきり笑い終えたガイランクさんはしみじみと呟く。
たしかに土曜祭で一芝居したとはいえ、あの時でも完全に抜け切れていなかった固定概念がいったいどこに行ったというのか。
私もガイランクさんも不思議でしかなかった。
まあ、幸せそうだから問題ないかと、締めくくり喫茶店をあとにした。




