第一話 壊れたアンテナ
人間は二種類のタイプに分かれるという。恋愛ができる人と恋愛ができない人。どうやら私は後者らしい。
なんで世の中にはラブソングがこんなに溢れているんだろうか。漫画やドラマや映画だって恋愛を主軸にしたものが多い。私は恋愛ソングも聴くし、恋愛ドラマや恋愛映画も普通に観る。私は物語が好きだし、フィクションとしては面白いと感じるから。
でも、作品や歌の中で繰り広げられる恋愛劇に自分の心が感情移入することはなかった。なぜなら私には、一目惚れも、恋のドキドキも、失恋の辛さも何一つ分からないからだ。
他の人達は一体何をもって人を好きだと理解するのだろうか。私にはそれがよくわからない。
きっと、人を好きになるセンサーやアンテナみたいなものが、個人に備わっているのなら、私のはたぶん壊れているに違いない。
そして、こんなことを誰かに話そうものなら、私は揶揄われるか、馬鹿にされるか、変な目で見られるのがオチだ。
本を読みながら頭の中でそんな考え事をしていると、一階にいる良く通る母の声が耳に届いてきた。
「葵、夕飯できたから下りてらっしゃい」
「わかった。すぐ行くから」
私は扉越しでも聞こえる様に大きな返事をする。読んでいた少女漫画を閉じて机の上に置いた。友達から借りた少女漫画の内容は、王道の男女の恋愛を描いた青春ストーリーで、私にはヒロインが男の子に対してドキドキする気持ちはよく意味が分からなかった。