番外編:本能に逆らえない動物さん達(式神)
お久しぶりです
陰陽師か陰陽師じゃないかで言えば、陰陽師ではないのが佐伯加奈である。
まあ、でも、こんな括りはわりかしどうでも良いかなと、俺なんかは思っているのだけれど。
「お前、気をつけろよ。そんなことを、私かクソ野郎(仙人)の前以外で言うと」
「言うと?」
「ラーメンに一家言ある有識者達並みに、"本物の陰陽師を見せてやりますよ"的なことを言われまくる」
何だよそれ。
あと、"本物の陰陽師"って何を見せてくれるのだろうか。除霊?
「天気予報だ」
スマホで検索できるなあ……。
「あと、式神を自慢されるかもしれない」
「ああ、よく加奈がやってる」
「やってない」
「そう?」
春うららか。木漏れ日おだやか。
加奈の手下猫というか、白丸──加奈の式神猫又──の部下は、俺達の手でブラッシングをされていた。
今日も今日とて、絶賛大学構内の芝生エリアで、ズレに潜り込んでいた。
「お前が式神のことをどう考えてるか分からないが、基本的には契約関係でしかないからな」
「契約関係、ねえ」
俺が知ってる式神を使役するタイプの術者達って、明らかに契約以上の仲だと思うんだけど。
『mya〜m』
一声鳴いた白丸は、そのまま加奈の肩の上に飛び乗る。膝の上には大学野良猫、肩の上には白丸(猫又)。猫まみれ。
「言い換えよう。式神と術者は対等な関係であるべきだからな。可愛がるなんてことは、あり得ないし、自慢するにしてもそれはその"力の側面"を誇ることが大半なんだ」
白丸が尻尾で加奈の後頭部をペシペシ叩いている。
「せやなあ」
可愛がるなんてことがありえない、っていうのはさすがにダウトだと思う。今の姿からは説得力が皆無すぎる。
「信じていないな、その顔は」
「信じる信じないというより、腑に落ちないだけだよ」
「なぜだ。私を見てみろ。これほど、対等な関係もないだろう」
もう、なんでもいいかもしれない。
ただ、と猫まみれの陰陽師が付け加える。
「動物を──元動物を含め──式神にしてる術者は、自慢傾向が強いかもしれないな」
「だろうね」
白丸なんて、うちに来たら文字通り猫可愛がりされてるわけで、普通にペットみたいなものに近い。
「これは、狸を式神にしているとある術者の話なのだが」
狸。
まあ、狐狸の類って、そういうのの定番ではあるから、不思議はないだろう。
「とある夜の日のことだった──」
「なにがはじまんのさ」
「狸を使役していたら…………自動車が来てしまい──」
なんかオチが見えた気がする。
「ばっちり気絶してしまったそうだ」
「狸ぃ……」
本能だからしょうがないのかもしれない。
「で、それからだ。飼いぬ…………その陰陽師は考えたわけだ。動物病院にも相談したらしいんだが」
「もう単なるペットの話じゃん」
飼い主って言いかけてるし。
「とりあえず、ピカピカ光る首輪をつけることにしたそうだ。夜道で車にひかれることがないように」
「狸って、式神に向かないんじゃない?」
「でも、霊験的には凄まじいぞ。白丸よりも、血統がはっきりしてるし」
なんでも、四国産の狸で、霊的には由緒正しいらしい。
「そして、これが写真なのだが」
「写真あるの?」
加奈が、俺に携帯の画面を見せてくれる。ついでに、なぜか白丸が俺の頭に飛び移ってきた。そこそこ重い。
そこにはばっちりと、術者と思しき男の人に抱きしめられた狸がいた。その隣には、ずらっと同じようなポーズで、同じように狸を抱いてる老若男女がズラッと写ってる。
「こちら、式狸愛好サークルの皆さんだ」
市民サークルの集いかよ。しかも、撮影場所は公民館の前らしい。
本格的に市民サークルじゃねえか。