番外編:言うほど盛り上がってない気がする今年のハロウィン
お久しぶりです
10月ともなれば、大概の飲食店がカボチャモチーフの料理やらドリンク、スイーツなんかを販売し始める。
我らが花風堂もその例に漏れず、この時期限定のカボチャプリンは毎日のように完売御礼らしい。
なんでそんなことになるかというと。
世間はハロウィン一色に染まるからだ。
「ということで。 卓也、数を数えるカチカチするやつは持ったな」
「加奈さん、どういうことかの説明は欲しいかなあ」
あと、普通にカウンターって言えや。
「私とお前の関係は?」
「恋人」
「なら、その恋人がイベントごとに共に出掛けるのならやることは決まっているだろう」
あー、この流れなんか知ってる。前にクリスマスでおんなじようなことあった。
「アルバイト」
「デートだ。 因に今回は前払いで、既にここに特殊な紙に描かれた偉人の肖像画が、六枚ある。 三枚が、お前の取り分だ」
「お金って言え」
あと、それはもうアルバイトで良いよ。
祭りの時期は、そういう怪異とかがよく出てくる。なんか楽しそうだからやってくるらしい。
クリスマスのように、御堂筋一帯に出店が並ぶなんてことはないから、俺と加奈は適当に中之島辺りの美術館に行って、そこから世界的コーヒーチェーンで限定商品を飲んでいる。
「デートじゃん」
「だから、デートだと言っただろう」
カウンターの数字も、言うほど増えていない。
「ハロウィンはクリスマスとは、事情が異なるんだ」
「どの辺が?」
「スマホを貸せ」
「やだよ、自分の使いなよ」
「……白丸を壁紙にしていることがお前に知られたら恥ずかしいじゃないか」
もう手遅れだよ。自分で言ってるじゃん。
あと、それくらいとっくに知ってる。
要は、スマホを鞄から出すのがめんどいだけなんだろう。
当たり前のように没収された俺のスマホで何をされるのかと思っていたら、写真を見せられた。
ニュースサイトにアクセスしたらしい。
「渋谷?」
「そうだ。 あと、この辺りをよく見てみろ」
加奈が人差し指で、画像の端の方にぐるりと輪を書いた。
そこに写っているのは、まごうことなく人の顔。
ただし、視える人にしか分からないタイプだけど。
そしてそれがなんかもういっぱいあった。
「もしかしてなんだけど……」
「多分その通りだ」
「怪異連中、みんなあっちの方に行ってる……?」
ストローでフラペチーノの残りの生クリームをこそいでいる加奈は頷く。
「本場だからな」
「本場は日本じゃないよね」
ヨーロッパとかあの辺じゃなかったっけ。
「この手の楽しみかたは、日本くらいしかしないのだから、実質日本発祥のイベントだろう。 ビックサイトのお盆と年末の祭典と同じ枠だ」
微妙に違うと思う。具体的には参加層が。
「お前も、ハロウィンの時に、そういう連中が視える頻度が普段より変わった、なんてことを思ったことは無かっただろう」
それは確かに。
これなら、お盆の時期の方がよっぽどよく視れる。
「じゃあ、前払いまでしてくれてたのは?」
「一応、集計は必要だからな。 東京の方は、集計で必死だろうが」
クリスマスの夜は大変でしたね……。
「ただ」
「ただ?」
「面白いものは見れる」
なんだかんだで本番はやはり夜のようだ。といっても、ぽつぽつ変な格好してるというか仮装してる人も歩いていないことはない、くらいの割合だけど。
そんなことを思っていたら、俺の手を引く陰陽師というか本職巫女が、ある一団のもとへと行った。
「あら。加奈さん、お久しぶりです」
「お久しぶりです」
六人くらいの女の人たち──ただし全員いわゆる魔法少女的なコスプレしてるんだけど。
「今年はどうですか?」
「そろそろ衣装の露出下げたい……ナマ足はそろそろテロになってしまうと思うの……」
「いっそ、全身黒ずくめとかありじゃない?」
「殺人犯っぽくなるじゃん」
キャイキャイと話し始める女性陣。
圧倒的に浮いている俺。
加奈の知り合いみたいだけど……。
「ああ、忘れていました。 こちら、私をたぶらかし」
「してねえわ、純愛だよ!」
「ということで、私のカレシです」
わあー、一瞬で好奇の目を向けてくるー。居心地わるいー。
「それでこちらの方々は本物の魔法少女の皆さんだ」
ええ……。
「あ、加奈さん、今年から魔法淑女を名乗ることにしたの」
ええ…………。