視えるカレと陰陽師なカノジョ
一週間が過ぎた。
地味に世界の危機を救ったわけだが、大半の人はそんな危機があったことなんて知るはずもなく、日常は動いていく。
あれだけの騒動があった学校は、まだ休校している。けれど、池の周りには人がいっぱいいた。大量の死骸の掃除のための職員さんもいらっしゃるのだが、それ以上に狂い咲きの桜を見物しようという人々が多く来訪しているのだ。
俺と加奈の来訪目的は、後始末と花見の半々くらい。
「病院は今もパンク状態らしいな」
「そりゃあ……蛙を生食したらね……」
食中毒大発生待ったなし。
前回の騒動で全く何も変わらなかったなんて事はない。まず、これは一般の人たちには特に影響を与えないことではあるけれど、この国の″神″が一柱増えたらしい。
「先日からずっと、公務員連中から文句を言われている。 なぜ、早いところ連絡を寄越さなかったのか、と。 延々と報・連・相の重要性を説かれて正直うざい」
手続きとか色々あるそうだ。
手続きと言えば。
「池のところに、勝手に祠建てたけどその辺は大丈夫なの?」
昨日完成した祠は、池の中央部に堂々と置かれていた。
仙人が、設計から着工まで全てを指揮していたらしい。
「ああ……まあ、大丈夫だろう。 必要なものだから、最悪公務員連中がねじ込むし。 何より、あのアホがここらの土地を買い取ったからな、ついでにこの学校の理事長になったらしい」
「は?」
この学校公立なんですけど。
「色々と手を回したそうだ。 かなりあくどい方
法を駆使したそうだが、詳細を聞きたいか?」
「いらない」
仙人のあくどい手段、洒落にならなさそう。国会議員の過半数くらいを脅迫とかしてそうだし。
「そんなもんじゃないぞ」
「知ったら、口封じとかされかねないからそれ以上喋らないで下さい」
仙人は毎日、祠へと通っているらしい。
「桜花さんは、戻らないの?」
「戻るとも言えるし、戻らないとも言える」
完全に消えたわけではないし、完全に消えたともいえる状態だそうだ。
「ただ……あいつの話では、桜花は必ず戻ってくると、約束を遺しているそうだ。 ならば、還って来るのだろう」
加奈曰く、ことばを遺すことはひとつの呪いだそうだ。神に近い存在だった彼女が置いていった呪いは、ある種の未来予知にも近いものらしく、ないことをあることにすることさえできてしまうとかなんとか。
「よくわからないけど、仙人の元へはいずれ戻るんだね」
「ああ」
それはよかった。
一陣の強い風が吹いて、桜の花びらが舞う。俺たちはそれをじっと見つめていた。
「そういえば」
加奈が口を開く。
「礼を言ってなかったな」
礼?
「お前がいてくれたから、私は私で居られた。 本当に助けられてばかりだ」
「そんなことないと思うんだけど……」
今回も名前を呼ぶことしか、できなかった。
それに、助けられてる数で言えば俺の方が圧倒的だ。口裂け女とか、蛙とか。
「それは私というか白丸……」
「ほんとだ……。 佐伯じゃなくて、白丸の方がしっかりしてる…………?」
思いっきり肩をしばかれた。
「とにかく、いつもありがとう。 頼りにしてるよ、私のズレを視れちゃうカレシさん」
「こちらこそ、俺のかわいい陰陽師なカノジョさん」
「陰陽師じゃない」
「あれ?」
そういえば巫女だった。こらえきれなかったようで、加奈が吹き出す。俺も一緒に笑う。
初夏のあたたかい風が桜の花を巻き上げて、俺達を包みこんだ。
予定変更して完結です。
後日談とか、別視点とか白丸のガールフレンドとか色々あるんですが、ぼちぼち気長にお待ちくだされば幸いです。
ひとまずここで締めさせて頂きます。
お付き合いありがとうございました。