神を創るとき③
池にたどり着いた。
蛙はまだまだ多くいるのだけど、桜花さんによって干からびさせられてしまうということを学習したようで、こちらの様子をうかがうのに留まっている。
「さて、そろそろ二手に別れるとするか。 そろそろ、僕もハニーといちゃいちゃしたい」
なに言い出したのこいつ。
「君達は、恐らく無自覚だと思うのだが、甘い空気というものをそうも放出されてはこちらもやってられなくてね。 本業術者達も想像以上に有能だったようで、加奈君の護衛に僕まで加わる必要も恐らく、ない。 そして、残念なことに、僕には君達のように周囲にハニーとの触れ合いを見せつける趣味は無いのだよ」
「そんなつもりは、欠片もないんだけど」
「意図せずともそうとしか見えていないから、問題なのだよ、小指絡めるだけなら見えないだろうみたいな発想を1ミクロンも持たなかったとは言わせないよ、あと、手の甲をくすぐるなんてこともこれくらいなら大丈夫とか思ってやってたんだろうどうせ」
あわてて、離れる俺と加奈。
「じゃあ、そういうことなので、僕たちは対岸の方に向かわせてもらうこんな所でいちゃついていられるか!」
「なんで死亡フラグっぽいこと言ってんのさ……」
基本的に、仙人には厳しい加奈が俺以上に文句を言うかなと思ったんだけど、意外にも口数が少なかった。
仙人がこちらに背を向ける。桜花さんは、こちらに長く頭を下げた。
「おい」
加奈がようやく口を開いた。
「なんだね?」
「本当にいいのか」
「──ああ」
◆
作戦の一段階目は、ズレの探索および特定。
そして二段階目は、
『ズレの本体に近づいたら』
『釣り、だな』
作戦の第二フェーズであり山場になる、と加奈と仙人は言った。
『釣り?』
『私が疑似餌となって、ズレをおびき寄せる』
あくまで、疑似餌なんだね。
『疑似じゃなければ、私は神になるが、お前はそれでいいのか?』
『全く良くないです、はい』
ズレがかぶりついてきたら、即座に引き剥がす。だから、あくまでも疑似であり呑み込まれてはいけない。
『そうなりますと、ワタクシは針ですか?』
『負担ももっとも大きいかと思いますが……』
『望むところでございます! ──主もそれを見越してワタクシをこちらに遣ったのでしょうねきっと』
そして、お狐さんは、
『では、加奈様失礼致しますね!』
姿が消えて、加奈に狐耳と尻尾が生えた。
『な、なにごと……?』
しっぽ。
『私に憑依させた。 それで、卓也お前尻尾に興味津々なようだが』
『ようだが?』
『触るなら、お前が毎日尾てい骨を地面に打ち付ける呪いをかけるからな』
『理不尽!?』
『…………理不尽かい……?』
◆
「卓也」
「うん?」
「もうすぐ、作戦の二段階目が始まる」
すなわち、ズレをおびき寄せること。加奈が、巫女が、ズレをその身に卸すこと。
「お前は、私の名前を呼び続けていてくれ」
私をこの世界に繋ぎ止めてくれ。
「わかった」