講義のことを単位でしか見られない大学生
術者達に課した要求はシンプルなものだった。
『私を守れ。 人々の命を奪うな。 あとは好きにしろ』
その要求に、その場にいた全員は了解し。
本業術者達は我先にと大学まで向かっていった。
◆
「えー、お集まりの皆様は本日のお日柄もよくバリバリとズレているところまでお越しいただき誠にありがとうございます」
ペコリと頭を下げる、狐耳九本尻尾ありの加奈(巫女服)。
「さっきまでの神聖さはどこ行った」
「中二病連中(本業術者)たちと共に消えさった」
中二病って呼んでるんだ、あの変な服装の面々のこと……。因みに、この女も元中二病である。
「ここの方々は、大体が顔見知りだからね」
残っているのは、副業の方々ばかりだ。この辺は、先生ばかりでなく仙人や加奈も知り合いのようだった。
「どうして、職場にあんなもんが湧いてるんだ……」
「あ、単位の節はお世話になりました」
般教の教員(うちの学校は高等教育科という学科があって、そこの所属の教員は教養系の授業を専門にしているのだ)がいらしたので、頭を下げておく。
「授業ですらなく、単位で認識するのは普通にダメじゃないかなあ……。 ところで、君はうちの学生、なのかい?」
「私の同回生で、かつ婚約者です」
間違ってはない。
そして当然ながらその発言で一気にザワザワし始めた。
いろんな所で、″あの加奈ちゃんが……?″という言葉が呟かれる。
「「「「「あの、ミジンコよりも小さかった加奈ちゃんが……?」」」」」
「クマムシくらいはありました!」
もっとでかいだろ。一体、どういう生き物なんだよ。
「冗談はさておいて」
仙人が声を張り上げると、ざわつきが収まる。
「見ての通り、あの″佐伯の巫女″も無事に育ち今はぶっちゃけると恋愛に浮かれきっています」
「浮かれてはない!」
「胸に手をあてて考えてみたまえ」
自分の胸にっていう意味だし、せめて手をあててください。それは耳だよ加奈。あと、心音を聞かないで下さい脈拍が早まってることがばれちゃうじゃん。
「本当に浮かれてる…………」
「親戚の可愛がっていた子にカレシがいたことを報告されたときの気持ちってこんなんなんだ……」
「カノジョに巫女服を着せるとは、大した男だな……!」
おかしなのまざってるし、風評被害受けそうなんだけど。
流石に、こんなアホなことを理由なく仙人と加奈はしないとは思うので、なんか意図があってほしい。
ところで、さっきから狐耳が俺の頬っぺたにペチペチ当たっててくすぐったいんですよね。それを払おうとしたら、ピクンと加奈の全身がちょっと揺れた。
「もしかして、感触あるのそれ?」
「ああ。 だから、さわるなよ絶対にさわるなよ?」
振りだよね。
「みぎゃっ!?」
そこまでやれって誰が言った。仙人はため息を吐きつつ、一応の主目的からは外れてはいないのでバカ二人を視界に入れないようにして。
「と、まあ、完全に我々の存在を忘却して二人の世界にあっさりとはいってしまったわけですが」
「おばさん、胸焼けしてきたわ」
「わかります」
だが。
「ご覧になられたらわかると思いますが、もし彼──卓也君の命が今回で喪われることがあればこの国は亡ぶでしょうね」
今回のズレを神として封じられたとしてもだ。
″佐伯の巫女″はそういった存在だ。強大なズレを──すなわち力を、その身に宿しそれを容易く振るう。
巫女の血が濃ければ濃いほど、情が深くなるのが″佐伯″だ。そして、加奈はここ百年で類を見ないほどに、血が濃かった。
大学教員が一歩進み出る。
「言いたいことは分かった。 巫女だけでなく、彼の命もしっかり守ることを誓おう」