霊能力者集団といわれると、眼鏡の物理学者をその中に放り込みたくなる年頃
一階には、ぎゅうぎゅうに人がいた。いわゆる霊能力者集団ということで変な格好をしている人ばかりかと言えばそんなことはなく、仕事終わりのサラリーマンっぽい人とか、子供会の行事に参加したら一人か二人はいそうな主婦っぽい人とか、端的に言えばごく普通の人も多い。
「因みに、右から三番目のメガネの男性に見覚えは?」
「般教でお世話になりました」
大学教員まで混じってるのかよ。
「ここら辺は、社会的な地位も築いていて、先生の呼び掛けに快く応じてくれた方々だな、さしずめ副業術者達だな」
術者のお給料の相場が良く分からないが、かなり良い副業だろうなあ。
「一方で」
副業術者達とは正反対の方に仙人はわずかに視線を動かす。
こっちは、不思議な格好の人達が集っていた。包帯、眼帯、全身真っ黒、頭からなんか角とか生やしてる、などなど。身も蓋もない言い方をすれば、コスプレ集団なんだけど、必要だからその格好になっているということは良く分かる。
「こちらは、本業術者達だ。 実力は保証されているが」
「癖すごそう」
「その通りだ。 彼らは、僕たちを出し抜くことしか考えていない」
だが、今回の作戦の肝はこっちのコスプレ集団になる、そう仙人と加奈は言っていた。
◇
『ざっくり言えば、今回は私が神になることが作戦の目的になる』
なんの気負いもなく、加奈はそう言った。
『はい!』
『なんだ、卓也』
『神になんかなられちゃったら、俺が孤独死するか、加奈神の元に向かうために凄まじい親不孝するかの二択になるんですが』
『安心しろ、ずっと″神″になんかなるつもりはない。 こっちだって、お前関連での未練しかないからな』
つまり、どういう意味?
『つまるところ、″佐伯の巫女″が今回のズレには相性が良いんだよ。 神を創る最大の山場は、こちらの物にズレをいかに当てはめるかだ。君も 形代、という単語は聞いたことがあるだろう? 』
えっと、人形とかで、神様が宿ってるやつだっけか。
『そうだ。 今回は一瞬だけ私が形代になる』
『それだと』
結局、加奈に神が入り込むんじゃ──
『安心したまえ、卓也君。 一瞬と言っているだろう。 そこからすぐに、僕のハニーと』
『ワタクシが引き受けますので!』
不安はあるけど、残念なことに俺にはその不安を形にできる知識も言葉もなかった。
そんな俺に気づいたのだろう加奈の、両の手に手が包まれる。安心させようとしてくれているのだろう。
そして、務めて明るく。
『となると、まずは私の護衛を集めなければな』
◇
俺の目から見ても、護衛になるはずの人達は既に派閥でわかれているようだ。まとまりなんてあるはずもない。こういうのを指すことわざは。
「烏合の衆」
「その通りだ、あっちの連中は特にな。 だからこそ、演出が必要なんだ」
「さっきから演出って言ってるけど、それって」
仙人はピンと伸ばした人差し指を唇に当てる。黙ってみていろということだろうか。
そして、加奈が顕れた。本当に、なにもないところから、ふっ、と。
「告げる──」
神々しい雰囲気を纏って。




