クソデカってつけると薄れるシリアス感
「それで、まことに遺憾だが、真面目な説明をするとだ」
最初からやれや。
遺憾アピールか、手の甲をコツコツ当ててくるので、捕まえて指先を絡める。これで、変に動かなくなる。
「ズレを引き起こす存在が、いつもと違う出自なんだ」
『どうしてお二人は、突然手を繋ぎだしたのでしょうか?』
「いちゃつきたかったのでしょう、彼らはそういう生き物です」
『主がたまに、参拝してる人間に対して言う、バカップルってやつですね!』
聞こえてるぞ、そこ一人と一匹。
「基本的にだが、力のある存在は自然に影響を及ぼすことがある」
「うん」
「分かりやすくいえば、風神や雷神といった存在だな。 もっといえば、天照大御神」
太陽の神様か。
「それらは、単純に台風だとか稲妻だとかの形で影響を及ぼしているね。だが、今回の場合は、どこに影響が出ていると思うかね?」
仙人の問いに俺は少し考えて、
「人の行動?」
普段しないことをした教員、食人、カエルのレシピ、教科書の焚書それらは全て、行動として現れていて。
「もう一声、君の専門は?」
「……………心か!」
人であるならば、さらには動物にさえ根底に必ずあるもの。そこに影響が出れば、無論行動も変わる。
「そうだ。 勿論、従来のクソデカズレでも、人の行動に影響は出ていたんだが」
「クソデカズレて」
そういう言い方されると、逆に大したことなそうに聞こえる不思議。
「あくまで、それは二次的なものだ。 例えば、彗星が接近し、その恐怖や不安から終末論が蔓延したように」
しかし、今回は。
「もっと直接的に、個人に影響が出ている。 天候の変化や地形の変化のような、敢えて言うならば環境の変化は無いのにだな」
「今回のズレの原産地は、そうだね、妙な話だが個々人のもっともっと奥深くの、宇宙のような広い部分かもしれないね。 さて、卓也君、こんな部分をかつて名付けた偉人がいたね、彼はこれをなんと呼んだかは、分かるね」
個人の心の深いところ──無意識。 その、もっともっと奥深くの、人類が共通して持つイメージの根源。それは、
「普遍的無意識……!」
「その通りだ。 さしずめ、ズレの正体は元型のひとつかもしれない」
「あの、元型の?」
「そうだ。 アーキタイプ──英雄や母といったイメージの源、今回は怪物や悪魔といったイメージそのものかもしれないね」
なんか、机に突っ伏したくなってきた。あまりにも、相手が壮大すぎる。そもそも、もし術者二人の予想が正しいとすると。
『そうなってくるとですね、ワタクシは大変相手取るのがタイヘンだと、愚考いたします!』
その通りだ。どうするのだろうか。
加奈は、絡まっている指をもっときゅっと強く握りつつ。
「安心しろ、ここまで分かれば当然手はある」
自信満々に、答えた。