幕間 白丸さんは不機嫌
『musuuuuuuuuuuuu!』
久々の白丸さんが、鳴いた。
「猫と思えない唸りかたしてるけど大丈夫?」
「ん、ああ。 私が帰省に連れていかなかったから機嫌が悪いだけだ」
昼休み。
天気もよかったので、芝生にレジャーシートを広げて加奈と一緒にお弁当を食べていた。
「白丸って案外寂しがりやさんなんだ」
「何を言ってる、そんなわけないだろう」
『umyu』
同意を示す一匹。
「それはそれでどうなの、飼い主的に」
「飼い主ではなく、こいつの主だ。 飼ってない」
「この前、予防接種行ってたけど」
「主の務めというか、あれで接種したものは、特殊なものだぞ? 対蠱毒のやつとか」
「餌付けとか」
「最近は、私よりお前のご家族の方がしてるだろう」
あれ?
「飼い主してる?」
「だから、してないと言ってる。 私は、あくまでこいつの、主だ」
譲れない一線らしい。
胡座をしている俺の膝の上に、白丸が乗っかって来たので背中を撫でる。
『buuuuuyuyyuuuuu』
唸られた。
「じゃあ、なんでこいつこんなに機嫌悪いの?」
「端的に言えば」
卵焼きと唐揚げを交換しろ、と加奈が目で訴えてきたので、俺の唐揚げを箸でつまむ。口が開いていたので、そこに放り込んだ。ついでにこっちも放り込まれる。
「ふぁーふぃふふ」
「飲み込んでから言いなさいよ」
しばし咀嚼。
「ガールフレンドと会えなかったからだな」
「ガールフレンド????」
いんの?
まじか、と白丸を見ると、おるわい!とばかりにネコパンチ、厳密には猫又パンチをおみまいされる。
「ああ、そういえばお前の前には現れなかったな。 佐伯の家の床下に棲みついている、黒い猫……白丸、あれはまだ猫で良いんだよな」
『nyam』
「まだかろうじてギリギリ猫がいるんだが」
「ギリギリってなに?」
逆に、余裕で猫とかそんな言い方するのだろうか。
「まあ、それが白丸のガールフレンドだ。 で、今回は罰として連れ帰らなかった」
「罰?」
何をしたんだろう。加奈の食器でも割ったのだろうか。
「あのバカと、こいつが共謀して、勝手に私のズレに割り込んだだろう?」
あのバカ、すなわち仙人。学内放送で、ぶえっくしょん!という音が聞こえた気がするけど、多分偶然。
「あー」
GW前の、事情説明の時のやつか。
「そういうわけで、今年の年末までこいつはたとえ私が帰省しても、連れ帰ってやらん」
『buuuuuuuuuuuuuuuuu!』
にらみ合いを始める、一人と一匹。
「争いは同レベルでしか発生しない……ってことか」
「同レベルじゃない!」
『ninmai!』




