最終回の雰囲気が出すぎててびびる(まだ終わりません)
そんなこんな、ワクワクなんかよくわからない存在の巣窟(※恋人の実家)での滞在日も、今日までである。
いや、ほんとここについていく決心をしたあの時から想像できないくらい満喫した気がする。
「気がする、じゃなくてめちゃくちゃお前は満喫していたぞ」
「そう?」
「体重増えただろ」
加奈は俺の腰に手をまわす。
「わかるもん?」
「さあ?」
そりゃそうだ。
加奈と正式にお付き合いが始まったわけだが、心なしか向こうからの接触が、いや別に俺からの接触もしてたことはないんだけど、増えてきたように思う。
ただ、加奈さん。
「ここで、引っ付かれるのはちょっと……」
そういうことをしていると。
「あら~」
ワッサーと、紙鬼さんたちが俺に群がってくる。多分に殺意を含んでいるやつらが。
「いたいいたいいたい、髪の毛引っ張ってるから!」
沙彩さん、相当にシスコンである。薄々感づいていた。そして、計画通り、といわんばかりの顔をしてやがる加奈。
こいつまだアクロバットに拗ねてやがる……!
「いやー、卓也君のお陰で、呼吸がしやすくなったよ」
「ふがふがふが」
「義兄さん、よくそれで毎日暮らせてるね……」
本当だよ。こんな短時間でも、意…………識……が遠のい……て。
「はっ」
「目覚めたか」
気づけば自動車の中だった。新幹線の駅まで送ってくださる約束をしていたことを思い出す。
「待って、俺ご挨拶してないんだけど!?」
恋人のご両親に、お世話になりましたって言ってないの、結構致命的なんじゃ……?
「安心しろ、運転手は」
「パパです」
「ママです」
「二人合わせて」
「………………」
「ここで梯子外してくる!?」
倫太郎さん、沙彩さんは留守番だそうだ。
そして、加奈はなぜか鼻メガネである。
「さすがに、意識を奪うのはやりすぎだと思いましたので、罰です」
「なるほど……?」
「私は、これで新幹線に乗らなければならないそうだ」
どうやってるのか知らないが、外せないようにされているらしい。
「因みに姉さんは…………いや、お前に言うことではないな…………」
何があったのさ。怖いから聞かないけど。
「お世話になりました」
「また来てくださいね」
「…………もし、加奈ちゃんを妊し………………あででででで冗談だからやめてママ!」
このご家族は全員普通に別れさせてくれないのだろうか。
文佳さんは、最後に俺に深々と頭を下げ、ついでに耳を引っ張られつつ厳蔵さんも頭を下げる。
「私が言えることではないかもしれませんが、加奈をどうかよろしくお願いします」
「基本的には気立てがいいこなので、大事にしてやってください」
「基本的にってどういう意味、父さん?」
「任されました」
◆
プシュー、と新幹線が出発する。
ここから、あと一時間もすればもう地元に到着し、明日からは日常に戻る。
こてんと、加奈が俺の肩に頭をのせる。
「卓也」
「ん」
「色々とありがとう。 そして、大好きです」
「うん。 俺もです」
あと、どうでも良いけど、いや切実にその鼻メガネ外せない?
加奈以上に俺の方が恥ずかしいんだけど?
「いやー、罰だからなー」
「貴様、さてはそれが狙いで!?」