新幹線はリッチな乗り物です
加奈の実家は、中国地方にあるそうだ。従って、帰省手段として学生のほとんどが選択するのは高速バスになりがちなんだけど。
「新幹線でその辺行くの初めてかもしれない」
特殊な才能がないとできないタイプのバイトで加奈はがっつり、俺はそこそこ稼いでいるので往復で数万円が飛んでしまうような交通手段も選択できてしまうのだ。
自分の手荷物を棚に置いて、ついでに加奈の分も乗せる。
GW初日ということで新幹線は結構混雑していた。自由席だったら、座れなかった可能性もあるな。
「卓也、はっきりと言え」
「加奈の実家らへんに行くのが初めてです、はい」
中国地方。
絶妙に、旅行先として選ばれがたい地域である(※主観100%です)。大抵そのままもう数時間ほど乗車して九州まで行ってしまうし、あるいはその地方の玄関口辺りで乗り換えて四国に行く。
というかそもそも。
「新幹線、停まるっけ?」
「舐めるなよ、卓也。 人間よりも牛の方が人口が多い我が県(※そんなことはありません)に、そんなハイテクな乗り物を停められるような駅があるとでも?」
うーん、自虐的。
新幹線が、動き出した。加奈は、後ろの席の人に一声かけて席を良い感じの角度に調整する。何度か試して、満足の行く高さに落ち着いたようだ。
「いや、でもほら、砂丘とかあるし」
「砂丘はお隣の県だ」
「梨とか」
「それも隣だ」
プリッツをカリカリかじっていると、口を指差されたので咥えさせる。
「あとは……ヨシ○君とか!」
「そこで○の爪団が出てくる辺り、あの作品が県の知名度アップにえぐいほど貢献してると実感させられるな……」
加奈は、両手でプリッツを持つとカリカリカリカリと小動物感溢れる食べ方でどんどんとそれを短くしていく。
「で、真面目な話、加奈の実家がそこの県にあるのって、国造りのお方が奉られている神社があるから?」
「今まではふざけていたのかお前……。 まあ、その通りだな」
日本で最も神様が集まられるところ。そこに、佐伯家があるのは偶然ではないと思っていたのだが、予想通りだったようだ。
「だから、気を付けろよ卓也」
「?」
「これから、そこに来てもらう私が言うのはおかしいと分かっているが。 私の実家は──今の佐伯は、日本で最もズレやすい地を管理している。 回避不可なズレが発生する確率も、有情なソシャゲのピックアップガチャくらい高いからな」
フラグっぽいんだけど、わからんてその例えは。
そして思ったより魔境だったのか、これから行く県は。
ところで。
「それで、結局のところ新幹線に乗っても俺達目的地に到着しないんじゃ……?」
「お好み焼きと、カキ小屋という言葉に興味がないものだけが私に文句を言いなさい」
確信犯かよ。まあ、ここまで来て帰省しないなんてことを加奈がするなんて全く思わないからいいけど。
当然ながら、文句はないです。
それに。
今の加奈は空元気でなんとかしようとしてる状態っぽいし。
「いくらでも、お付き合いしますよ」