幕間 侑芽さんは良くみてる
伊豆野侑芽。
20歳。
大学生。
実家暮らし。
父、母、兄、の四人家族。
近頃は、兄のコイビト(仮)の猫がご飯をたかりに来るので、もう一匹付け加えても良いのかもしれない。
最近嬉しかったこと。
兄にかわいいカノジョができたこと。つまり、実質義理の姉ができたし、性格も良好。この先を考えると、大変喜ばしいことである。
最近腹が立ったこと。
兄がこの期に及んで、カノジョではないと言い張ること。実家に連れ込んで、しかも何日も泊まらせておいてその言いぐさはなんなのだ。
しかし侑芽は、男女の仲のややこしさにはそれなりに理解がある。めちゃくちゃ仲が良くても、お互いに恋愛の範疇外なんてこともしばしある。だから、一度尋ねたのだ。
「卓也って、加奈さんと付き合うつもりないの? もしかして、あの、何か違う的な」
親友だから、的な。
「そんなわけないだろ」
即答だった。
ならば、なぜだ。そんなわけないんだろうが。なぜ付き合わん。
現に今も、だ。
『充電するか?』
侑芽は、ドアノブにかけた手を引っ込めた。兄の恋人(仮)の声だ。兄の自転車は既に置かれているから、おそらく会話相手は卓也だろう。
侑芽は、当然ながら兄のカノジョ(実質)さん以前卓也にしたのと同じ質問を投げ掛けたことがある。
その答えは、「友達じゃないよ」だった。でも、じゃあ何なのかと尋ねても困ったように微笑まれただけだった。
それを踏まえて、侑芽は結論付けた。
「卓也も加奈さんも、ひょっとせずとも面倒くさい」
そして、同時に一つの推測を立てていた。その面倒くささゆえに、多分まだあれでカップルっぽい触れあいはしてないのだろう、と。
しかしである。
『充電はしたいかな』
ドア越しとはいえ、気配が分からないということはなく。
(ハグ……?)
思った以上に、ちゃんとカップルっぽい。ハグなら親しい人同士ならあり得るかもしれないが、日頃の兄達はどう見ても艶に満ちているので。
侑芽は、ちょっと安心した。兄は──卓也は、ちょっと浮世離れしているところがある。それは体質のせいでそうなったのかどうかは分からないが、飄々と一人で生きていくような予感がしていたのだ。
でも。
(良かったね、お兄ちゃん)
本当の意味で、卓也を理解できそうなヒトが見つかって。妹としては結構心配してたんだよ、じつは。
それはそれとして。
ガチャ、とわざと大きな音を立てる。予想通り、すごく近距離の、それも多分お互いに抱き締めてたりしない限りあり得ない距離の二人がいた。
「わっ」
「げっ」
今さら驚いてももう遅い。
「卓也、加奈さん。 一部始終録音しといた(大嘘)からごめんね、そういうことするなら玄関ではやめといた方がいいよ、いやーいいもんみたー」
「お願いします、侑芽ちゃんデーターは消してください」
「そして記憶から早急に忘れ去ってください、妹様」
兄と、そのかわいいカノジョさんを、弄るのはなかなかにたのしいのだ。
次回から帰省編です