禁断の手、「タイトルが思い付かない」を使ってしまいもはや打つ手がない
殺風景。
この空間は、その一言に尽きた。昨日の空間は、立派な建物なんかもあったのに今日は全体的に薄暗くて特になにも生えていない地面が広がるだけだった。
「本来なら、歓待でもしたいところだが残念なことに時間がない、そして見ての通り建物もなにもないのでね。 手短に行こう」
仙人はそう言って、地面に直接座る。俺もそれにしたがった。
「さて、どう思った?」
仙人は、主語をとばしてそう尋ねてくる。
「加奈が帰省する必要ある?」
むしろ。
「そんな虐待していた母親からは、離れている方がいいと思うんだけど」
加奈を命の危機にさらした。加奈に心理的な傷を与えた。
法的に立証すら、できてしまいそうだ。
「うん、その通りだ」
仙人は、あっさりと認める。
「だが、少しだけ待ってほしい。 勿論、加奈君の話は真実だ。 しかし、それだけでは不充分なんだ」
不充分?
「いくつかの視点が抜けているのだよ」
周囲が暗いせいか、仙人の表情がよく見えない。
「まずひとつ、加奈君のお母君は視えない人だ
。それも、ごくごく一般の、ようするに僕たちのような家柄の出では全くない、本当に″普通″の人なんだ。 ならば卓也君、例えばもし初めてみるズレが実の娘が異形に姿を変えていくものだとしたらだ。 君は正気でいられると思うかい、少なくともその場で」
「それは……」
俺も、完全にそういったものが視れない人たちの気持ちが理解できるかというと、自信はないけど。想像にかたくない。けれど。
「それでも!」
仙人は、こちらに掌を向ける。
「待ちたまえよ。 こちらから君に提供すべき情報はまだある。 そして、次は佐伯の問題だな。 さて、君は″佐伯″の家業についてどこまで聞いたのかな」
「身代わり、ってところは」
「ああ、なるほど身代わりは言い得て妙だ」
どこか皮肉げな笑みを浮かべる。
「なら、″佐伯″が古くからあるということは?」
「聞いたよ」
「では、その家業のお得意様はどうだい」
俺は首を横に振る。まあ、でも多分。
「どうせ、権力者、とかだろ?」
「素晴らしい。 そうだよ、身代わりを必要とするのは、単純に他人から狙われやすい人物だ。 ならばその上で、一番の上客はどういう立場の人間だと思う」
権力者、では正解ではないのか。少し考えて、俺は少しなげやりに、
「この国で一番一番えらい人」
「その通りだよ、卓也君。 古来より、この国の頂点に立つことを定められた家系の人物。 すなわち、かつての現人神達だ」
「…………!」
「なら、もう少し想像を拡げてみようか。 そんな風に、かの家系から重用されてきた一族がいて。 ほとんど没落していたその一族に、再び大きな力を持った巫女が産まれたとしよう。 それを邪魔に思う老害どもが存在したとしたら」
「……まさか」
現代の日本で、そんなことあり得るのかよ。
もしかして、加奈の母親は。
「老害どもは、こう考えたんだ。 その一族で最も与しやすい人物を操って″巫女″を処理しようと。 では、その一族で最も与しやすい人物とは?」
そういった技術に、加奈や仙人、先生のように、ズレを認識してそのズレに存在する連中をもっといえばズレそのものを操る術に精通してない人物。それは、多分この話に関わるなかで一人だけだ。
「…………加奈の母親」
その通りだ、と仙人は答えた。