猫バスにのってみたい気持ち半分、乗り物酔いするんだろうなという気持ち半分
オープンスペースから覗く空は、しとしとと雨をこぼしている。今年の春は、どうも雨が多いらしい。
今日の雨で、満開だった大学の桜も散ってしまうのだろう。
『なるほど、それで加奈君は昨日から君の自宅にいるのだね』
『myaaaaaaaa!!!』
「桜花さんの姿なのに、仙人の声がするのキモいね」
あと、白丸はミニチュアサイズの桜花さんを振り落とそうとするのやめなさい。仙人の声がするまで、あんなに仲良しそうだったのに。
あれから、一夜明けて今日。加奈は今、俺の家から学校に通っている。昨日の状態の加奈を一人にさせる訳にはいかず、かといって加奈の部屋に俺が転がり込むのは、色々と不味かったので侑芽を巻き込んで俺の家に来てもらった。
『一人暮らしの加奈君の部屋の方が都合が良いのではないのかい? 声とか』
「邪推すんな、俺と加奈は極めてプラトニック。 シンプルに、キノコが生えてる部屋は嫌だったんだよ」
食生活は劇的に改善しているが、それ以外は手をつけないつもりなのだろう。女の子の部屋には、夢も希望もないのだ。というかあの女、良く体壊してないな本当に。
『………………キノコ? 加奈君には、栽培キットの趣味があったのか』
「自生してるから、人為的なものじゃないよ」
自生といっても良いだろう。養分とかは与えてない、って本人が言ってたし。
『!?!?!?!?』
珍しく仙人が目を剥いて驚いていた。いや、目を剥いてるのは桜花さんなんだけど。
「加奈の家事が壊滅してるってこと、知らなかった?」
『知らなかった…………』
壊滅つーか、やる気がないっていうのが正確なところだけど。
仙人の驚きぶりからして、昔はそんなことなかったのだろう。げに恐ろしき大学生の一人暮らし。
「で、加奈の破滅的生活ぶりはどうでも良いとして」
『破滅と生活ぶりという言葉を引っ付けるような状態は、どうでも良いで片付けてはいけないと思うが……』
どうでも良いのだ、本当に。
それ以上に。
「俺に何の用だよ」
昨日の今日だから、本当は顔も合わせたくなかった。
『端的に言えば君に話すことがある』
「こっちはないんだけど」
『そう言うと思ったので、少々強引にセッティングさせてもらうよ』
セッティング、という言葉に疑問を覚えた刹那。
『ーーーーーー』
『──────』
白丸が啼いた。
桜花さんが哭いた。
空間が、どろり、と塗り変わる。
どろりとしたものの正体は、濃い霧のようだ。
やがて、霧が薄れてくる。
そして、俺を出迎えたのは。
「ようこそ、卓也君」
この空間の主、仙人だった。