シリアスさんが出ずっぱり……
「産まれてすぐに、私は狐に憑かれたらしい」
加奈のお母さんの気持ちを考えてみる。
産まれてすぐの娘。その娘から、異形の耳がみるみるうちに生えてきて。
「なんでも、父の指を噛みきらん勢いだったそうだ」
他人事のように、加奈はたんたんと続ける。いや、実際他人事なのだろう。本人には、もう記憶がないのだろうし、少なくとも加奈自身の意思ではない。
「その狐に、うるせー口だなをしたのがあの阿呆で、父は事なきを得たんだが」
「そこに繋がるのかあ……」
仙人は、獣もいける口なんだ、すげえなあいつ。
そして、時系列的にはここで許嫁の話は破談になったのか。
「でも、なんで破談」
破談になって良かったと思ってるけど、話的には仙人って色々と恩人だよね。多分、加奈のお父さんのピンチを救ってるし、憑かれてた加奈自身と狐を引き剥がしてるわけで。
「いくら恩人であっても、獣姦趣味の男を父は娘にあてがいたくはなかったらしい。 」
「どこまでやっちゃったの!?」
人目をはばからなかったのかよ。生々しい部分は知りたかないけど!
「そんなことがあって。 母は私に口を利かなくなった」
ごっそりと表情の抜け落ちた顔で。加奈は事実をただただ紡ぐ。
「父と姉がいなければ、私はこうして育つこともできなかったかもしれない」
嘲るでも、なんでもなく。ただただ、そこにはなにもない。
俺はつよくつよく、目の前の女の子を抱き締める。
「だが、そこで終わっていればまだ良かった」
終わらなかった。
「うん」
「今度は、私がズレを扱う技術を習得するのを邪魔するようになった。 想像してみて欲しい、卓也。 ズレを扱う技術は、つまるところ私に憑こうとするものに対処する術だ。 それを奪って母はどうするつもりだったと思う?」
「それは……」
その技術は、加奈自身を守るためのもの。それを邪魔するということはつまり。
「母は、私にいなくなって欲しかったんだろうな。 結局父が母の妨害に気づいて、事なきを得たが」
話は終わらない。
「その次に母は、どうしたと思う?」
「…………」
「私が、高校に入学してから、釣書が毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日。 机の上に置かれるようになった。 まだ、未成年で法律でも婚姻が禁じられているに関わらずだ。 追い出したかったんだろうな、私を」
これで終わりだ、と加奈は言う。
この子に、俺ができることは一体なんなのだろうか。ただ、一つはっきりしてるのは。
加奈を一人にしてはいけないということだ。