四月はゴールデンウィークの前振り
さて、と仙人は咥えていたストローを口から離して言った。
「加奈君」
これまでに見たことがないくらい、真剣な表情だった。
「なんだ」
「君、帰省していないだろう。 厳密には帰省はしているようだが、実家には近づいていないだろう」
加奈は、仙人から目をそらす。
「放っておけ、私の勝手だ」
「そういうわけにはいかない。 なんせ、僕は一応君を親御さんから預かっている立場だからね」
「保護者面をするな」
なんだろうか。
俺と、桜花さんの目が合った。居心地が悪そうだ。
そうだよね。急にまじめな雰囲気になって。
「風邪ひきそうですね」
『───』
こくこくうなずく桜花さん。
やっぱこの妖精さん、まっとうな感覚持ってるな、ほんと……。
俺たちが交流を深めていることもお構いなしに、シリアス会話は継続されていた。
「そもそも、私はもう子供じゃない」
「さてさてそれはどうだろうか。 まず、君はしっかりと親御さん、ああ正確に言えば母上と対話したことはあるのかい?」
「対話が成立するわけないだろう。 こちらの話も聞かずに、勝手に見合いをあれほど押し付けてくる人なんだぞ」
「それは君も同じではないか。 母上の言い分も聞かずして、勝手に家出して、帰省もせずに」
これはきっと、加奈の大事なところにかかわる話だ。さすがに、風邪をひきそうなんてことを言ってる場合じゃないなと、察した。
「君も、わかってはいるのだろう? 今のままじゃダメということは」
「………………っ」
「ということで、卓也君」
「あ、はい」
急に会話飛んできてびっくりする。
「加奈君の実家についていきたまえ」
「あ、了解です」
「おい、まて」
どうせ、いずれしなきゃなんないことだし。
「ゴールデンウィークでいい?」
「そうだね、学生の本分は勉強だからね」
「どの口が言ってんの、この五留」
「正確には十五留だよ。 この通り僕は君よりも学生歴が長いからね、学業の重要さは君よりも身に染みて理解しているさ」
「そうだね、卒業できてないもんね」
「おいおい、何を言ってるんだい卓也君。 卒業じゃないよ、僕が出来ないのは。 僕は進級がままならないだけだよ」
偉そうに言うことでは断じてない。
「さて、加奈君。 彼もこう言ってくれているんだ、胸を張って帰省したまえ。 それとも、君は彼との関係を学生時代の淡い思い出で終わらせるつもりかい?」
「それは……」
加奈は、まるで迷子になった子供みたいに。
どうすれば良いのかわからないような顔で。
「あとは、二人で話してきたまえ。 なあに、これくらいなら先生も許してくれるさ」
パチンと、仙人が指を鳴らす。
花風堂のカフェスペースが、一気に姿を変えた。
「ここって」
武家屋敷?
「あいつが造り上げたズレだ」
振り向くと、加奈がいた。
しかし、その姿はひどく幼い。ぎり小学校高学年くらい?
「え、加奈若くない?」
「それは、お前もだぞ」
「おれも?」
思った以上に甲高い声が出た。
ひょっとせずとも、俺も加奈と同じ歳くらいになっているということだろうか。