タイトルがボチボチ思い付かなくなってきた
それでは改めまして。
加奈は正面に座る男を人差し指で示す。文字通りな指の使い方してる。
「卓也、こいつはクズ大学生という概念の擬人化で、遥か太古の昔に、私の許嫁でもあったことがある男だ」
「お互いに知り合いだから今さら紹介されてもなあ……」
もとから、大学生のクズの擬人化ってのは学部周知の事実だったし。
「それで」
今度は俺の方を、ちゃんと5本の指を使って指し示した。なるほど、仙人だから指一本で差し示してたんだ。
「こっちは私の恋人内々定者だ」
「どうも、内々定です」
うん、なんか、照れる。
次また仙人がこちらを茶化してきたら、コップの水を頭からぶっかけてやろうと思っていたんだけど、存外にも神妙な顔で謎にうなずいていた。
「なるほど、内々定。 言い得て妙だな。安心した。 これでもし、同級生と紹介されたら、僕手製の出られない部屋に閉じ込めることも検討していたが」
出られない部屋、作れんの?
ちょっとした疑問が残りつつも、今度は仙人たちの紹介ターンにうつる。
といっても、仙人は当然ながら普通に知ってる間柄なので焦点はピンクの人なんだけど。
『ー、ーーーーーーー。 ーーーーーーーーー。 ーーーーーー、ーーーーー!』
「うむ、ハニーが完璧な紹介をしてしまったから、僕から言うべきことは何もないな」
「ああ、確かに。 なれ初めの説明ふくめて完璧な挨拶だったな。 改めて思うが、お前にはもったいなさすぎるぞ」
「何も聞こえないんですが」
会話を遮ってごめんね。
聞こえてないと言うか、俺に分かる言語じゃないと言うか。
何ていうか、強いて言えば葉っぱが擦れるみたいな音がそれなりに抑揚がつけられていたことしかわからん。
「…………ああ、そうか。 そうだった、卓也お前は特殊な訓練を受けていなかったな」
そうなんですよ。
「こちらの……呼び方がないから不便だが」
「僕はハニーと呼んでいるが、ここではそうだな。 桜花、とでも呼んで貰おうか」
「卓也、こちらの桜花さんだが」
ピンクの人あらため桜花さんは、座っている都合上、頭をペコペコ下げてお辞儀をする。
どうもどうも。
「分かりやすく言えば、桜の妖精さんだ」
「へー、妖精さん」
頭の中で、ディ○ニー映画のキャラが躍り狂う。
「ご実家は、大学の池の畔だそうだ」
「ああ、なるほど」
今日というかここしばらく、各部活が新入生歓迎会を開いていたあそこだろう恐らく。桜の妖精さんだそうだし。
ということは。
「もしかして、仙人があそこにいたのは」
「勿論、ハニーに会うためさ」
「新入生のフリをしてたのは」
「勿論、ロハ飯を食らうためさ」
やっぱそうかよ。
申し訳なさそうに、頭を下げている桜花さん。人間のルールを把握しているのかまさか。
「ねえ、加奈」
「ん?」
「もしかしてなんだけど、仙人よりも桜花さんの方が人間界の良識を弁えてる……?」
「だから、さっき言っただろう。 こいつには、もったいないって」
どや顔で胸を張りながら、どこから取り出したのか分からないけどストローで9%チューハイを飲んでいる仙人が俺の視界に入りやがった。
うーんこの。