六股までいけばもうヒモじゃなくてジゴロなのでは
仙人は痙攣をしながら、テーブルに突っ伏している。人って、本当に殴られたあとにビクンビクンするんだな。
その状態にさせた先生は、へこんだお盆を元の形に戻しながら、
「それで、二人とも」
「はい」
「どこまで進んだの?」
先生はにっこり微笑む。この人も仙人とほとんど同じ穴のムジナじゃん。
「どこまでもなにも」
「クリスマス、バレンタイン、ホワイトデーの夜に、一緒に過ごした程度の進展ですが」
「状況証拠は完全に、黒ね」
ほぼ全部、やむにやまれない事情があるんだけどね。主にバイトとか。
「でも、さっきチューまでは済んでるみたいな感じのこと、言ってなかった?」
「言ってはいません」
「仙人が勝手に推測しただけです」
俺も加奈も完全に開き直っている。もうどうにでもなあれ。
「憶測ではないのね」
先生はコロコロ笑う。
「いつ? ホワイトデーが怪しいって踏んでいるのだけど」
「八割は、ホワイトデーですね」
「残り二割は?」
「そこは加奈次第といいますか」
残り二割の、口頭での契約に関しては加奈から、待ったがかかっている。
申し訳なさそうにしている加奈の背中をぽんぽんと軽く叩く。
「なら、残り二割は今日埋めたまえ!」
うわ、びっくりした。急に大声を出すなや、怖いだろうが。
『―――――』
仙人の隣の女の人が、代わりに謝罪してくる。
いやいやいや、お姉さんが気にすることはないですよ。
はい。
あー。
うん。
「おい、そこの馬鹿!」
「そこの人、人で良いの? この方、どなた!?」
「マイハニーだ」
「え…………」
桃色の髪と瞳を持つ、まるでアニメの中から抜け出してきたような存在。
明らかに人間ではないことは確かだと思うんだけど。
「お前!」
旧知の仲らしい、加奈の驚愕のあまりか、なんか戦慄いている。
「今度こそ本気なんだろうな!」
「そこ?」
相手が怪異な点は問題ないのか。
「やだなあ、加奈君。 僕はいつだって本気だったじゃあないか」
「そういって、六股かけていただろう! 女(?)絡みの、流血を伴うメロドラを見せられるのはもうこりごりだ!」
魂の叫びだった。
『―――――――!?』
どういうことかと、仙人を問い詰めるピンクの人。人じゃないけど。
「安心したまえハニー。 僕には君以外の存在はゴミクズにしか見えていないから」
『ーーーーーー』
仙人が耳元で、使い古しの砂糖をまぶした言葉を囁くと、ピンクの人は頬も桃色に染めてコクンと頷く。
「どう見ても、ヒモと毎回言いくるめられてしまう女性の構図だよね」
同意を求めようと加奈の方を向けば、
「ぐるるるるるるるる!」
「怒りが天元突破して人間語忘れちゃってる?」
あー、もうむちゃくちゃだよ。誰かというか、先生助けてくだ…………いない。逃げたなあの人。