都市伝説と洒落こわの境界はどこ
詳細といっても、説明できることはほぼほぼない。
帰り道に、赤いコートの高身長なマスクをした女──十中八九口裂け女だろう。 むしろ、そうじゃない方が怖い──に出会って、間一髪で白丸の猫火によって救われただけだ。そして、なんならその口裂け女は、猫達のご飯になったようだし。
「なるほど」
ただ、予想に反して佐伯の表情は優れない。
「口裂け女に、間違いなさそうだな。早めに手を打つ必要がありそうだな」
「手を打つ?」
昨日、白丸がファイヤー!してくれたし、後処理までしてたはずなんだけど。
「お前は、昨日大分運が良かった」
「それはまあ」
猫又の式神さんが、俺んちに飯を集りにこなけりゃ、俺ひとりであれに出会っていたわけだ。
足のアザ程度ですまない怪我はしていた可能性もある。
「どこまで認識しているか分からないが。 いわゆる都市伝説で語られる部類のアレらは、特に危険性が高い。 何せ、最初から人間に害をなす存在として、こっちにやってくるから」
確かに。
俺は納得の首肯を返す。
昨日出会った口裂け女は、明らかにこちらに害をなすつもりだった。他の都市伝説も、神隠しや、人間に怨みをもっているものが多い。
妖怪なんかは、意外と割合的にはそういったものは抑えられている。なんだよ、トイレを覗いてくる妖怪って。
「それは、都市伝説自体が新しいものだからだ」
「新しいとか古いとか関係あるの?」
「ある」
佐伯は断言した。
「私達は、ズレに対する感度が高いと以前言ったことは覚えているな」
「うん」
「ならば、そのズレが私達のような存在以外にも、視えるようになる条件はなにかということは、考えたことがあるか?」
ない。
「食いぎみに否定しなくても…………。まあ、良い。 ざっくり言うと、恐怖を感じると視れるようになる」
なんとなくだが、佐伯の言いたいことが分かってきた気がする。
「もしかしてなんだけど。 都市伝説は現代人が恐怖を感じるように調整されてるってこと?」
「調整か…………うん、そうだな、その通りだ」
良くできました、と言って佐伯は飴ちゃんをくれた。
鼈甲飴じゃん。
「だから、妖怪は時にお前にとっては訳の分からん行動をとるものがいるし、反面都市伝説は、昨日対峙して気づいただろうが、シンプルに危険なんだ。 私達が、恐怖を感じる言い替えれば危険を感じるように、調整されているからだな」
「それは分かったけど……」
口裂け女に、手を打つ理由は?
昨日めってされてたと思うんだけど。正確には、にゃっ、かもしれない。
「単純な理由だ。 多分だが、今日にも復活しているだろう」
「まじで?」
「まじ。 それだけ、ちゃんとした手順以外で追い払うのは難しいんだ」
そういえば、以前のぬりかべさん部室塞ぎ事件のときに、そんなことを聞いた覚えがある。
「えーと、鍵だっけ」
追い払う手順そのものが、鍵のようなものになる。
「そうだ。 よく覚えていたな。 これをやろう」
ポマードをくれた。
うん、どんな手を打つか分かった。
「今日の帰りは、何時ごろの予定だ?」
「んー、部活もないけど五限あるから六時ごろかな」
「なら、その後昨日のところまで案内してくれ」
まあ、そうだよね。