青タンって言い方ってもしかして方言なのか?
目の前に立ち塞がる口裂け女。俺はとっさにハンドルを右に切った。
自転車のブレーキが、大きな悲鳴を上げる。運悪く、いや運が良かったのかも知れない、前かごが電信柱に激突する。
ゴシャリと前かごがひしゃげた。バランスを崩して足を電信柱にぶつけるも、俺は転倒を何とか免れる。
だけど、
『ねエ、わタし、きれイ?』
状況は何一つ好転していなかった。
口裂け女の、足は速い。
事実かどうかはともかく、現に全力で自転車をこいだにも関わらず後ろから追いかけてきてさらに、正面に周り込まれている。
だからこそ、俺がこの存在から逃れるには自転車が必要不可欠だ。
だけど。
『ねエ』
「────っ!」
一瞬で距離を詰められる。自転車を起こす時間は全くなかった。
『ネエ』
恐怖を感じると動けなくなる。
俺は色々視える人間だけど、この存在のように、最初からヒトに危害を与えるように生まれた存在にここまで近くで遭遇したことはなかった。
『わたし』
『Huuuuuuuuuuuuu!』
だから、動いたのは白丸だった。
口裂け女の顔に飛びかかり、両の手の爪で引っ掻く。
『き』
『Syaaaaaaaaaaaa!』
猫であっても、狐火というべきなんだろうか。
白丸の声と同時に、青白い炎がぶわっと出現する。
『レ』
『Gaaaaaaaaaaaa!』
白丸が口裂け女を焼く。一気に燃え広がった。
口裂け女は、断末魔の叫びも上げることはなかった。
白丸、ちゃんと強い。
口裂け女の残骸は、白丸の配下の猫達が引きずっていった。その後、どうするかは考えたくない。うん、
取りあえず。
「白丸さん!」
『Nyao』
「煮干しと鰹節、あとチュールで如何でしょうか!」
恩猫さんに、御礼をお供えしなくては。お猫さま最強。
◆
食堂のテーブルに、足をぶつけた。
「痛っ」
昨日ぶつけたところは、一夜あけてアザになっていた。冷やすのサボるんじゃなかった。
「え、お前足怪我したの?」
「昨日、ちょっとね」
説明しても、通じないだろうから微妙にはぐらかす。口裂け女に襲われた何て言って、信じるのは経験者くらいだろう。
どんくせー、とか言われて、うるさい、とか返していたら、
「ごめん、伊豆野くん借りて良い?」
右後ろから、肩を捕まれた。え、誰?
「あ、どうぞどうぞ」
「ありがとう」
佐伯加奈さんは、にっこり笑って俺のトレーを没収。
「佐伯?」
「伊豆野くん、ちょっと、二人っきりでお話ししようね」
目が、笑っていなかった。
俺、なんかやっちゃいました?