結構歩いたなと思って看板確認したときに、実際はそうでもないと発覚したときの絶望感
今日訪れている神社が、結構な数の作品の舞台やモデルになっていたりする由縁は、何といってもその鳥居の多さにある、と俺は思っている。
千本鳥居と呼称されることもあるが、その数は優に1万基は越えているだろう。因みに、鳥居は一基、二基と数えるそうだ。最近までしらなかった。
「話には聞いていたが、壮観だな」
「ねー」
この鳥居、全部寄進だそうだ。一基建てるのに、数十万円という感じらしく、お手頃なお値段のミニチュアサイズな鳥居もあるらしい。うーん、資本主義。
「まあ主神が、繁盛の徴でもあるから、こうなるのもおかしくはないか」
「主神って、お稲荷様だっけ」
「そうだな、宇迦之御魂大神だな」
すらすらと淀みなく、神様の名前を諳じる佐伯。さすが、そういう家系出身者だ。陰陽師だっけ?
「他にも、稲荷に縁がある神が奉られてるそうだが」
「へー」
「…………というか、連れてきたお前は何でそれを知らないんだ」
しゃーないじゃん。神社の中の人(人というか神?)のことなんて、一般の人たちはあまり知らないと思うよ。
「そういえば、お前一般家庭出身だったな」
「なにも見えないって点では、一般家庭かもしれないねえ」
「なら、興味なくても当然か。一応、神、というか神社も、ズレに関わってくるんだが」
「そうなの?」
「ああ」
佐伯はうなずくと、ちょいちょいという感じに階段の端の方を指差した。小さい社のしたで、ここなら立ち止まっても他の人の邪魔にはならないだろう。
佐伯がバッグからお茶のペットボトルを取り出したので、俺もレモンティーを取り出す。普通のお茶にしたら良かったかもしれない。
「お前は、後天的に『神』になれるのは、どんなものだと思う? ああ、この場合創世神話で語られるような天津神は一応除外しておいてくれ」
「いきなりムズすぎない?」
救世主とか?
「うん、それもこの国ではある意味正解だな、だが逆に怨霊──滅ぼそうとする存在も、神になっている」
「あー。あの、学問の神様とか」
「そこは知っているんだな。知識偏ってないか?」
「日本の歴史読んだからね」
全巻読破した。
「他に、人じゃなくても、災害なんかが『神』としての名を持つことがあるのは分かるか?」
「雷とか?」
確か、雷神とか風神とかいなかったっけ。
「そうだな、その辺は今はアニミズムの一環として理解されることもあるんだが」
この場合のアニミズムって、自然信仰だっけ。
そう確認したかったのだけど。
できなかった。
佐伯の頭の上の耳が動いたからだ。
…………え?
「まあ、ぶっちゃけるとその辺の何柱とかは、ズレからこっちにやってきたことで神格化されたのもいる。こっちと、あっちでは自然のルールが違うから、ある程度力のある存在がこっちに来ると災害の原因になったりすることもあるんだよ」
佐伯には非常に申し訳ないのだが、話が入ってこない。
佐伯の動きに合わせてピョコピョコと動いているなんらかの獣の耳。
生えたの?
「で、神社は、ここなんかは特に顕著なんだが、そのズレを、無理やりこっちに適応させる役割を持つところもあるんだよ」
「うん、佐伯色々説明してくれてありがとう」
でも。
「それで、あの、佐伯に、なんかの動物の耳が生えてる理由の説明はあるのでしょうか」
「は?耳?」
何ばかなこといってるんだ、って言われたけども。
佐伯の手首を掴んで、彼女自身の頭の上に移動させる。
あ、ダメだ。これ触れないやつだ。
佐伯は自分の頭を撫でているだけだ。
スマホの写真を試すことにした。画面をのぞいてみたら、ちゃんと耳があった。
いけるな。
インカメにして、その画面を佐伯に見せる。
「…………」
佐伯はしばし無言。
「…………」
俺も無言。
そして。
「マジかあ…………」
非常にめんどくさいことに遭遇してしまった、みたいな感じが佐伯から溢れてきた。
いやいやいや、リアクション薄くない?
もうちょい驚こうよ。