ネコと和解するタイプの教え
「着いた…………」
電車から降りた佐伯は、とんでもない試練を乗り越えたかのように疲弊している。
佐伯が、実に大変であった。
一緒に歩いていたはずなのに、乗換駅で別の路線の改札に向かおうとするし。結局、俺が腕を掴んで止めて、そのまま本線の改札まで連れていった。
券売機に並んでからも、全然切符買わないなあと思ってたら、購入の列の流れに乗り遅れていて、順調に抜かされて行ってたし。タイミングつかむのって難しいんだなあ。昔からあんな列に揉まれて来たので、いまいち難しさは分からない。
「普段、電車乗らない人?」
佐伯は下宿生で、地方から出てきてるってことは知ってるけど、流石に三年もこっちにいれば何回かは使ったことあると思うんだけど。
「地下鉄で、基本どこでも行けるから、な」
「あー」
市内に行くだけならそれでどうにでもなるし、そこで大体全部揃うからな。
遊びに行くのも、市内か、車出せる人に乗っけて貰えば電車を乗り継ぐなんてことしなくなるか。
「なんで元日なのに、あんなに混みあっていたんだ……」
「元日早々、遠出してる俺らがいうことじゃないね」
そうだ、京都行こう。のキャッチフレーズはだてじゃない。意味もなく、行きたくなってしまうのが、関西在住者の本能なのだ。(※個人差があります)
お疲れな佐伯はふらふらと、歩き出した。人の流れと逆方向に。あわてて、腕をつかむ。
「佐伯さん、そっちは神社ないよ?」
「裏道とか使って、空いてる道を行きたい……」
迷子になるよ。
混雑していることは確かだったので、次の電車が来る直前まで待機して、出発することにした。単純に前に進めなかったとも言う。
目的地の神社までは、一本道なので迷うことはない。それに、今日は人で溢れているので、前についていけばどうにどもなる。
それにしても。
『ネコと和解せよ』
『ネコは汝を赦された』
「ネコ教…………?」
「なんでこうも、うまいことペンキが剥がれるんだろうな?」
謎だ。
「そういや、お宅の猫さんは?」
「白丸は、大学のキャンパスにいる。多分」
相変わらず自由な。
「年末も、うちに何回か来てたけど」
「…………まじか。私の式神が申し訳ない、鰹節代払うか?」
「んー、うちの母親が喜んでるから、別に良いんじゃない?」
どれくらいかというと、我が家に煮干しが常備されるようになったといえば伝わるだろうか。
「本当に悪いな、勝手に居着くようになってしまったら、声をかけてくれ。責任をもってあれの生活費を払うから」
そこは、引き取るとかそういうことじゃないんだ。
特に中身もない会話をしながら、人の流れに身を任せていると周囲の景色が普通の住宅街から、屋台が立ち並ぶまるでお祭りみたいな景色へと変わってくる。
そして、まもなく鳥居が表れた。
だけど、俺と佐伯は、
「なあ、伊豆野よ。醤油の焼ける匂いってどう思う?」
「大変よろしくない」
ということで、参拝という名前の登山をする前に、腹ごしらえをすることになった。