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視えるカレと陰陽師なカノジョ  作者: Wana-wana
学部三回生秋~
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プロローグ② 猫集会、夜だと普通にびびる

「えー、そんな彼が、えー、新たに作った学派が、えー、分析心理学というわけですね。では、少し早いですが良いところまでいけましたので、終わりにします」


さっきまでの静けさはなんだったんだとばかりに、教員の終わりの言葉と同時に教室には喧騒が戻ってくる。

次の講義の教室移動までの猶予ができた俺は、早速行動に移すことにした。

右斜め前の席のショートヘアーの君(霊感あり疑惑高め)の背中を軽く叩く。

彼女は、何事だとばかりに、結構勢いよくこっちを振り向いた。


「佐伯さん」

「あー、伊豆野君か。どうかした?」


さて、どうしようか。ぶっちゃけ、何も考えてなかった。

いきなり「幽霊とか見えてる?」なんて聞くのは、普通に変人過ぎる。だから、結局当たり障りの無い、いや普通に佐伯さんが俺と同類じゃなかったら当たり障りありまくりだとは思うけど、比較的ダメージが少なそうな単語で軽くジャブを放つことにした。


「ズラ」

「ふふはっ」


クリティカル出したっぽいな。


「あの先生、じつは髪の毛ないんだろうね……」

「やめて、思い出させないでほしい……ふふっ。伊豆野君も、見てたんだ?」


どうやら、結構ツボだったみたいだ。

ただ、本当に知りたいのはこの先。佐伯さんが、視える人なのかだ。だから、一歩踏み込む。


「やっぱ、ズラと天然物じゃ味が違うのかなあ」


あれが、視えていないと訳のわからない発言を意図的にした。さて、どんな反応が帰ってくるか。


「ハハハ……ハ」


佐伯さんの表情は一転して、険しいものになった。あれ?

そして、


「伊豆野」

「は、はい」

「授業終わり、空いてるか?」


彼女の声は四段くらい低くなった。

地獄のそこから響く声ってこんなんなんだろうな……。


「ご、5限終わりなら……」

「面貸せ」

「へひゃい!」


虎の尾を踏んだ狩人の皆さんはこんな気持ちだったんだろう。


背中に虎を背負っている(これは比喩)佐伯さんは、俺を監視するためにわざわざ次の講義にもぐり込んできた。

当然俺は気が気じゃなかったので、講義の内容も殆ど頭に入らない。

そして、時間が経過すれば当たり前のことだけど講義は終わるわけで。


「ついてこい」

「へい……」


脳内BGMは、ドナドナだ。


所で、うちの大学には野良猫が山ほどいる。いや、もう野良といっていいのか分からないくらい、餌付けされてるんだけど。

だが、それでもやはり、人ではなく獣だ。

そんな獣が、ざっと十匹、俺達を、厳密には俺を取り囲んでいる。


「ノコノコとここまでついてくるとは、相当な自信があるようだな」

「自信って……なんの?」


自分の声が恐怖で震えているのが分かる。

獣達を従えている主は、俺の質問に答えてくれない。


「どうせ、佐伯の家の差し金だろう。今まで、一切私に近づいてこなかった意図は分からないが、まあいい。私の母に伝えろ。まだまだそんなつもりはない、と」

「いや、だから、何の話を」

「まだ、言うか。だが、この状況になってもまだ惚ける胆力は、中々のものだな。それとも、貴様も式がいるのか」


この時、偶然、本当に偶然、カラスが鳴いた。時間帯的には、珍しいことではない。

しかし、佐伯さんは、


「なるほど、カラスか。式として選ぶには、悪くない。悪くはないが、準備不足だな」


一人なにか合点してる。


「だから、何の話だよ!」


俺は、キレた。普通に考えて、相手を刺激することは最悪手なんだけど、我慢できなかったのだ。

そして、当然のごとくカラスは『kaaaaakaaaa』と鳴いて、どっかに飛び立った。

気まずい沈黙。足元の猫達はゆらりと尻尾を振っている。


「あ、あれ?まさか、その、式じゃなかったのか……?」

「式ってなに?そもそも、俺は普通に佐伯さんが視える人か知りたかっただけなんだけど」


重い沈黙。猫達は、解散した。


次の瞬間、佐伯さんは流れるような一切無駄の無い土下座を披露してくれた。

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