駄菓子屋さんに売られていた蝋石、あれって何でできているんだろうか
ヒョウ柄シャツのお姉様は、一旦奥に引っ込んでいった。お茶を出してくれるらしい。
花風堂の関係者以外立ち入り禁止スペースを、佐伯は慣れた様子で先導してくれた。
通された部屋は、和室だった。表は洋菓子店なのに裏手はそこまで洋風というわけではないらしい。
さて。
「お面に睨まれてるのって、怖いよね」
「そうか?」
「そうだよ」
それも、壁一面にズラリと並んでたら、恐怖もひとしおだ。なおかつ、その部屋に正座してるわけだし。
せめて、夜店とかでよく見かけるキャラモノだけならまだしも、世界各国の民族の儀式用とおぼしきやつだと更に薄気味悪い。美術の教科書でしか見たことがないような奴から、アノニマスマスク、果ては日本のアニメキャラのお面まで。一周回って日本のキャラお面が一番怖くなってきた気がする。
「そんなものか。見慣れているせいで、感覚が麻痺してるのかもな」
「見慣れてるの?」
やっぱりバイト先だから、しょっちゅうここに来ているのだろうか。
「というより、呪具としての側面があるからな。先生含めて、知合いでお面ばっかり集めてる奴も、何人かいる」
「あー、そういうね。ってことは、もしかして俺が明日からやるバイトも 」
「言ってなかったか?まあ、視える必要はあるな」
やっぱそうか……。
「ついでなんだけど先生って、何の?」
『勿論人生の師よ』
「うおっ!?」
びびった。
声がする方を振り向くと、お面のひとつがカタカタと揺れている。
「先生、少々趣味が悪いのでは?」
『驚かすつもりは、全くなかったんだけど』
「そうであっても、趣味が悪いのは確かです。大体、いつになったらここに入るための、無意味なボックスステップ三回の合図を、変更してくださるのですか?」
あそこの動き、普通のボックスステップだったのかよ。てっきり、そっち系の意味がある動きと思ってたよ。
『そのうちね。それと、後5分くらい仕度に時間がかかるから、加奈ちゃんとカレシ君は自由にしててね~』
「「カレシじゃないです」」
とんでもない誤解を否定したすぐ後にカタカタお面は、静かになった。
佐伯は、ため息を吐く。
「伊豆野、お前は私が全く意味もないのに新しいお客さんだからビックリさせたいがために変な仕掛けを作るような人を、人生の師と仰ぐと思うか?」
思わないです。
俺は、ブンブンと首を横に振った。
「結局、先生って」
「そこの面とかもだが、こういう変な道具を収集、鑑定、販売をしてるんだ。ついでに、ケーキは先生の旦那さんがお作りになっている」
「へー」
「つまり、菓子も変な道具も売っている、一昔前の駄菓子屋みたいなもんだな」
「それはちゃうやろ」
駄菓子屋さんが、呪具を集めて販売してる訳ないでしょ、多分。




