冷暖房完備、Wi-Fiまで備えている施設があるってマジ?
毛並みを整えて貰った黒いワンコは、またもや地面に転がっている。あーあ、どろどろじゃん。白丸はそんなワンコを見て、フンッと鼻を鳴らす。
佐伯は、特にそれらを気にすることもなく、俺の方を向いた。
「式神、という言葉の意味は分かるか?」
「ええと、使い魔みたいな……」
ゲームの知識だけど、それで合っているはずだ。
「そうだな。うちの実家では、使役でシキという字を当てることもある。要するに、ポ○モンだな」
「ポ○モンかあ……」
その理屈でいうとポ○ットモンスター 白猫/黒犬みたいなのが、今の状況だろうか。
「それでだな。基本的にこの式は、人や動物、あとはごくごく僅かだが霊的な存在、なんかを使うとになる」
「人も?」
「そうだ。その方が都合が良いからな。白丸みたいに、霊的な力を持っている存在──要は妖怪とか都市伝説の怪異とかだな──が、素直にこちらの言うことを聞くかというとそうでもない。だったら、ズレを視る力、要するに霊感がある人間を、式にする方が手っ取り早いだろ?」
それはそうだ。いつぞや見かけた大学教員のズラを剥いで満足して消えていった存在なんて、どんな価値観で動くか分からんし。なら、言葉が通じる人間は扱いやすいだろう。
そうなると、
「白丸は珍しく素直な方だったんだね」
今、布製のバッグに爪をたててるけど。
「そうだ……な!お前!離れろ!」
『nmu』
「引き剥がすの手伝う?」
頼む、と言われたので白丸の首根っこをむんずと掴んで持ち上げる。不満そうに鳴くので、黒いワンコの方に運んであげた。遊んでおきなさい。
「人以外を式にすると、こういうこともあるが」
「どっちかというと、猫を式にしてるからじゃないかな……」
「色々便利なんだ。特に、猫とカラスは人気だな」
「あー、どこにでもいるから?」
都市部なんかだと、この二種類の動物はどっちかを必ず毎日見かける。
「そうだ。特に、猫なんかは可愛がられることが多いから、直接人間の情報を拾ってきてくれる。ついでに、ムシとか」
「お供えされるんだ……」
「いらんのに……」
ちゃんと飼い主と思われてるから、良いんじゃない?
「つまり、白丸を式にしたのは、縁と、便利だったからだな」
「そうなんだ、じゃあこのワンコは?」
「これはお前、この間会っただろう」
「へ?」
最近、お犬さんとお会いした記憶はないんだけど。
「痴情のもつれで相手の男を」
「え…………?まさか、あの蠢いていたあれ?」
「そうだぞ」
マジっすか……。あのワンコがどうやって、相手の男を呪うのかは、知りたくないなあ。
「まず、毎日夢に」
「教えてくれなくて良いから止めてください」
切実に。
「冗談だ。さて」
ぼちぼち行くぞ、と立ち上がる。彼女が手を叩くと、ワンコと白丸がバックの中に収まり、周りは本棚に囲まれる。図書館の中で、さっきの空間に入り込んだのだ。
「それで結局、明日明後日何すんの?」
「後で説明はあるが、クリスマスのイブと本番だぞ?年頃の男女がすることなんて一つに決まっているだろう」
そうですね。決まっていますね。
「ちょっとだけ割りの良いアルバイトだ」




