オープンスペースにも暖房を効かせてほしい
『学生の本分は飲み会、酒、ラーメン』とは同じゼミの年齢だけは俺よりた遥かに上でしかも入学年は誰も知らないという、現同回生で仙人との俗称を持つ野郎の言葉だ。ほぼ全部酒の席の話じゃねえか。
確かに、胃袋、時間、その他の要因からして、人生で一番耽溺できるのは、今の時期なのかもしれないけど。
それはそれとして。
『いかに酒とラーメンに命をかけているといえども、どうしても避けられないのは学業である』と、仙人は実に悲しそうに俺に告げた。
うん、まあ、その仙人はこの期に及んでも学業を避けようとして、そろそろ何度目かの三回生の春を迎えようとしているんだけど。ちょっとは学ぼうよ。
とにもかくにも、残念なことに俺たちは課題という試練を乗り越えなければならないのだ。
ぬりかべのいざこざなんかもありつつ、ぼちぼち冬休みの気配が見えてきた今日この頃。
俺はというと、
「ぎょうれつってなあに?」
「数Ⅲだよ」
「前田様、お願いします。英語のレポートを手伝わせていただきますので」
突然降ってわいてきた数学の課題を、友の力を駆使して乗り越えようとしていた。
「まあ、全然良いんだけどよ」
別の学部に所属する頼れるごりごり理系な前田は、貢ぎ物である一粒のチョコレートを口にしながら。
「このK大の院試過去問、一と三は解けそうだけどニは厳しいぞ」
「あのくそ教員め!!!!」
なんで、現役の工学部が匙を投げるような数学の課題を、純文系である俺に出してくるかなあ!
前田は、ペンを走らせる。俺は俺で、彼の英語の課題の長文をざっくりと訳す。
課題は!持ちつ!持たれつ!提出こそが正義!(クズ)
「これ般教?」
「専門」
「文系学部じゃねえの?」
「この教員、工学博士なんだよね……」
「ええ?なんで?」
まれに良くあるんだよなあ。大学、ワケわからん。
「うっし、できた」
「神よ」
「苦しゅうない」
「こっちも、ざっくり訳せたわ」
「ありがたやー」
お互いのルーズリーフを、交換する。
持ちつ!持たれつ!(二回目)
「んー、二番の問題どうしようかな」
「多分これ、三次関数をうまいこと使えばどうにでもなるとは思うが、わからん」
困った。
しばらく問題を見つめていたけど、答えなんて頭に浮かんでくるはずもない。
オープンスペースで頭を抱えていたら、顔見知りが丁度階段から上がって来た。佐伯じゃん。
「伊豆野、くん。今日の課題、一番の答え知ってる?」
前田がいるためか、今は男口調ではなかった。
「え、ああ、うん。いまゲットしたけど」
「まじ?写させてほしい」
「良いけど……まさかと思うのですが、佐伯さん、あなた二番解けた人ですか?」
「え、ああ、うん」
おお、神よ!




