ラーメン屋でからあげが注文できるのは富豪
「佐伯センパイッ!枝が見つかりませんっ!」
「なにぃーっ!…………なんだこのノリは」
それこそ、ノリだから俺にも分からない。というより、のってくれるんだ。
「枝じゃなくて、箒の柄でも大丈夫?」
「あー、んー、どうだろうな……」
ありゃ、微妙な感じ?
「木の枝と箒の柄じゃ、意味合いが大きく異なるからな」
「そう?」
「考えてみろ。木の枝を渡されて、掃き掃除をしろと言われたら、苦情を言いたくなるだろ」
それはそうだ。
「物には、役割が付与される。同じく、例えば箒で叩くことで追い払える怪異がいれば、それは箒という役割を持つ物でその行為をすることに意味がある」
「つまり、その例だと箒以外では意味がなくて、今回の場合は木の枝じゃないとぬりかべを追い払えないっていうこと?」
その怪異を追い払うには、その通りの道具を使う必要があるようだ。鍵みたいな感じなのかな。今回の場合は、それがその辺に落ちてる木の枝。
「そういう時もある。知らんけど」
俺はちょっとずっこけた。
「フワッとしてるなあ」
「しょうがないんだ。伝承自体がフワッとしてるんだよ。例えば、ぬりかべの場合、ある地域では狐狸の類であり、ある地域では謎の壁だから」
あー、それで追い払い方も色々あるのか。
「木の枝じゃないと追い払えないかもしれないし、箒の柄でも棒であることに違いはないから全然オッケーなタイプのぬりかべかもしれない」
うーん、色々佐伯が言ってくれてるけど、結局のところ。
「……取りあえず、試してみればいい?」
「そうだな」
言われた通りに、箒の柄の部分でぬりかべの足下らへんを軽く叩く。
のそりと、壁が動いた。
成功っぽい、んだけど。
「ねえ、佐伯」
「なんだ?」
「ぬりかべさん、出入り口につっかえてるよねこれ」
「間抜けなタイプだったか……」
佐伯と二人で、ぬりかべさんが外に出られるように斜めにその身体を傾けるお手伝いをした。
もう部室に入ってくんなよ~。
大学生の好きなもの、ラーメン、酒、大盛定食。
ということで、お礼がてら佐伯と大学近所のラーメン屋さんに寄ることにした。結構遅い時間だから、営業中のお店が限られていたのだ。
因みに、白丸はいつの間にか消えていた。寝床が、学内にあるらしい。
テーブル席の向かいに座る彼女は、眉にシワを作っている。
「メニュー何にするかお悩み中?」
「あ、いや、違う」
じゃあ、店員さん呼ぶね。
しばし、店員さんとやり取りをした後、
「さっきのぬりかべさんのこと?」
「ああ、そうだ。なぜ、あれがあんなところにいたのかが気になってな」
部室前で呟いていたことだろう。
「本来は、道を塞ぐ妖怪なんだよ、ぬりかべは。それがなぜあんなところに」
「未知を塞いでいたんじゃない?」
「は?」
佐伯がさっき呟いていたことだ。
「ほら、道は未知に通ずるみたいなこと言ってたじゃん」
「あ、ああ。確かに、それも、考えたが、ただの連想みたいなものだぞ?」
「あ、そうなのか。じゃあ、今の俺が言ったことは、忘れて」
「いや、聞かせてくれ」
専門家の前で発表するには、かなり恥ずかしいんだけど。
興味津津な様子の佐伯は、ここで止めることを許してくれない気がする。
「ほら、部室って、結構色んな物が置かれていたりするじゃん」
「ああ」
「だから、知らない人たちからしたら、未知の部屋で、その入り口を塞ぐことは、未知への入り口を塞ぐってことで……」
まって、まじで恥ずかしい。これは、単なるだじゃれだ。それも、めっちゃ下らないやつ。
「そう思った次第です。はい」
「なるほどな。おもしろい」
本当におもしろいと思ってます?
微妙に気まずさを感じているとちょうど良いタイミングで注文の品々が届いた。
「まあ、なんだ、からあげ食え」
やっぱ、先の俺の推論間違えてたんじゃないですか、それ慰めるためですよね、やだー!




