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僅かに確かな変化

 今は6日目だろうか。


 朝起きたら、とうさんが此処に来ていた。俺は少し珍しい事のように感じた。今までとうさんは、おそらく、昼頃に来ていたと思うのだ。

 起きた俺に気が付いたのか、俺に少し何かを話しかけた後、かあさんとの会話を再開した。


 その様子をぼうっとしながら見ていたが、少しすると、とうさんは何処かへ行ってしまった。


 お腹が減っていたので、かあさんに母乳を貰い、別段する事もしたい事も無かったので、再び寝ることにした。


 再び起きた時、またとうさんが居た。一度帰ったらその日はもう来なかったのだが、今日は二度目だ。これは少し、ではなく結構珍しい事だ。

 起きた俺に気が付いたとうさんは、また俺に何かを話しかけて、かあさんとの会話を再開した。

 

 それを見て、俺は父さんの事について考えていた。

 今のとうさんではなく、前の俺の父さんだ。


 父さんは厳しくも優しい人だった。子供の時には、色々と叱られた。俺が色んな悪さをしたからだ。もはやどんな事で叱られたかなんて覚えてないが、それでも一つ覚えているものがある。幼い時、俺が階段でふざけて遊んでた時だ。


 転びそうになった俺を助けてくれた父さんは、とんでもなく怒った。あの時の俺はなぜそんなに怒るのかわからなかったが、後々考えてみれば、あれは俺の命に係わる事だったからだろう。ちゃんと俺の事を考えて叱ってくれる人だったと思う。

 

 一見気難しそうで、子供の時散々叱られたのもあって、大きくなっても少し苦手意識は有ったが、父さんの事は嫌いじゃなかった。俺にちゃんと向き合ってくれてて、俺の事を大事に思ってくれていることは、わかっていたからだ。


 けれど、その苦手意識からか、父さんと話そうとすると少しギクシャクしてしまって、うまく打ち解けられなかったように思う。


 そしてそんなまま、ここまで来てしまった。


 これは、俺が向き合わなければならない後悔の一つだ。取り返せないからこそ、乗り越えなければならない。


 (今度は、とうさんとは、ちゃんと向き合うようにしよう。最期に後悔しないように。)


 決してこの決意も行動も、贖罪になるわけではない。ないが、それでも、もう後悔しないように行動しなければいけない。


 そんなことを考えていると、気が付けば、、父さんが居なくなっていた。


 部屋に静寂が広がっている。


 今日は天気がいいのか、ぽかぽかと暖かい。静寂を埋めるように、陽気が部屋を包んでいく。その陽気に眠気を誘われ、俺はゆっくりと眠りに落ちていった。






 女の子が男の人の膝に乗って楽しそうに会話をしている。男の人は何か机の上で作業をしているようで、女の子はそれを興味深そうに見ている。


 親子だろうか、微笑ましい光景だ。


 なんて思っていると、ふと、何か声のようなものが聞こえた気がした。そちらに意識を向けると……。






 誰かが何かを言っている。これは、俺に話しかけているのだろうか。頭がぼうっとする。何かいい夢を見ていた気がしたのだが、どうにも思い出せない。

 俺を夢の世界から引き戻したであろう、話しかけてきている誰かを恨めしく思っていると、いきなりお腹を触られた。


 寝起きで機嫌が悪く、なんだこいつ、と心の中で悪態を吐いていたが、お腹以外にも様々な場所を触られていく中で、何をされているのか、という疑問が湧いてきた。

 だんだん冷静になってきて、理由はわからないが、触診のような事をされているのでは、と思った。


 赤ん坊の全身を触るような触診があるのか、全くもって疑問だが、ひとしきり全身を触って満足したのか、その触診のようなものは終わった。

 その後、誰かさんは、母さんと何か短く話した後、部屋から出て行った。


 よく見れば、まだ母さんの他にも誰かが部屋に居て、その人も母さんと少し話した後、部屋から出て行った。


 (今さっき出て行った人は、今までにこの部屋に来た誰かのような気がする。)


 相変わらず目はよく見えないのだが、父さんや母さん以外にも、何となくだが、人を判別できる様になってきた気がする。

 しかし、その上で、さっきペタペタと俺の体を触っていった人は、今まで俺の会った誰でもない気がするのだ。


 (上手く頭が回らない。)


 自発的に起きたのではなく、起こされたからだろうか。未だ半覚醒状態のような、ぼやっとした感じだった。


 (この感じ、夜更かしして、朝目覚まし時計に叩き起こされた時みたいだな。)


 しかし、そんな寝不足の朝とは違って、もう一眠りしようと思っても、なぜかうまく眠れなかった。

 もどかしさを感じて身をよじっていると、歌のようなものが聞こえてきた。


 話かけているのとは違う、音階を感じる声。歌詞こそわからないが、歌であると認識できるものだった。


 目を瞑ってその歌を聴いていると、だんだんと意識が揺らいで、俺は眠ることができた。

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