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遭遇

 誰かがいる。


 (母親では……、いや、いい加減、他人行儀が過ぎる。母さんと呼ぶべきなんだろうが……。)


 しかしどうしても、まだ抵抗を感じずにはいられなかった。

 

 (兎に角、母お……いや、かあさんではない誰かがいる。)


 少しぎこちなさを抱えながら、思考を紡ぐ。

 

 俺は未だに目が良く見えない。色の判別がつかず、わかることと言えば、明るいか暗いか、そして明暗の違いから何かがいる、あるという事。

 人の判別なんてつかないが何となく、かあさんについては、目が見えずとも見分けられる気がしていた。


 今、俺の近くには、少なくとも見渡せる範囲にはかあさんは居ない。どこに行ってしまったのだろうか。

 そして俺の目の前にいるこの何某はいったい誰なのだろうか。


 (ここが病院で、かあさんが出産の為に入院しているとすれば、医者や看護師の可能性もあるが。)


 しかし俺は、この誰ともわからない奴に、既視感のようなものを覚えていた。この感じ、感覚、最近どこかで感じたような気がするんだが。


 何某は微動だにしない。じっと見られている気がする。気まずい。

 俺はコミュニケーションが達者ではないが、喋れなければ、それ以前の問題だ。


 ともすれば永遠に続くのではないかと思われた沈黙は、かあさんが帰ってきたことで終わりを迎えた。

 

 かあさんが何某と何かを話している、ような気がする。悲しい事に耳も未だによく聞こえない、ぼやぼやしていてはっきり聞き取れない感じだ。

 例え聞き取れたとしても、言葉がわからないだろうからあまり意味はないだろうが。


 結構長く喋っているな。この感じ、もしかしてこの何某、俺の父親なのではないだろうか。

 随分と、かあさんと仲良さげに話しているような気がする。いや、何を話しているかは全くわからないのだが。


 そうだ、このどこか覚えのある感覚、夢で感じたものだ。

 

 あの見知らぬ夫婦の夢で感じた感覚だ。やはりこの何某は俺の父親なんだろう。

 

 しかし、父親にしては俺とのファーストコンタクトが遅すぎやしないか。無論、時計なんて見れないから正確にはわからないが、生まれてから、それなりに時間が経った気がする。

 もしかして、俺が寝ている時に会いに来たりしていたのだろうか。もし、そうだとしたら、ちょっと申し訳なさを感じる。


 おっと。俺の事を持ち上げてきた。これは抱っこをしているのだろうか。かあさん以外に持ち上げられるのは、少なくとも俺が認識できてる内では、初めてだ。少し怖い。

 結構、丁寧に扱ってくれている感じがする。勿論丁寧に扱ってもらわなければ困るが、がさつな人ではないのかもしれない。いや、この感じは丁寧というより、恐る恐るといった感じだろうか。


 とはいえ大事に接してくれようとしているのは間違いない。


 何某の正体が判明し、長い緊張が解けて安心したせいか、眠くなってきてしまった。

 

 (お腹もそこそこ減っているが、父親とはいえ初対面の人の前で今、食事はしたくない。)


 俺は食欲よりも尊厳を取り、空腹を我慢して、今は寝ることにした。

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