問題2
異世界語。
ネット小説によくあるパターンだと女神様とかの加護で自動翻訳機能が付いたり、なぜか日本語が通じたり、スキルで習得できたりする。
しかし、どう考えても俺は加護なんか受けてないし、日本語が通じるとはとても思えないし、ゲームじゃないんだからスキルシステムなんて便利なものはないだろう。
(学校で習う英語ですら満足に使えないっていうのに、ここから新しい言葉の習得なんてできるのだろうか。)
ファンタジー小説の主人公で字は読めずとも言葉まで通じない奴はそうそういなかった。異世界にまで行って、モンスターではなくコミュニケーションに苦戦する主人公なんて、見ていたくはないだろうから当たり前かもしれないが。
しかし残念ながら、俺は物語の主人公じゃない、悲しいが言語の勉強から始めなければならないようだ。
(いや、悲観的になるな。必要に駆られれば、言語の習得は早いっていう話を聞いたことがある。それに子供の頭は軟らかいから、きっとすぐに覚えられるだろう。)
なんの心配もいらないと、自分を励ますように言い聞かせていた時、ふと、ある疑問が浮かんできた。
記憶。そう記憶。一体なぜ、俺は俺の記憶があるのだろうか。
当たり前だが、この体は元の俺の体とは全く違う。体は全然動かないし目も鼻も耳もうまく利かない。でもなぜか思考能力だけは元のままなのだ。
脳だけ元の体のままなんてことはあり得ないはずだ。意識も記憶も思考もすべて脳から生み出されるはずで、その脳も新しくなっているはず。はずなのに、俺は俺のままだ。
(というか俺は本当に俺だと言えるのか?)
テセウスの船やスワンプマンといった、同一性を問う問題が元の世界にはあったが、今の俺の状況はそれらより複雑かもしれない。
見た目も構成要素も何もかもが違う中、意識だけは同じ。いやもしかしたら意識だってオリジナルではないかもしれない。
俺の、つまり、オリジナルの記憶をコピーした別人の可能性だってある。
自分の、アイデンティティが揺らぐ。
(落ち着け、例え俺がコピーだったとしても、この体に、この意識を持っているのは俺だけの筈だ。)
例えこの意識がオリジナルのコピーだったとしても、それは俺がまた違う、新しいオリジナルになったというだけに過ぎない。
そう考えると少し落ち着いてきた。しかし、俺の同一性の如何にかかわらず、赤ちゃんの脳に前世の記憶とも言うべきものとその思考がある、という事への疑問は尽きない。
(もしかしたら、記憶や思考というのは脳にだけ依存するものではないのか?何か脳以外のそれらを担うものが存在するのか?)
そう、例えば、魂、とかだろうか。
しばらくの間、俺はこの問題について考えていたが、答えが見つかるわけもなく。気が付けば俺は眠ってしまっていた。
何処かからか、暖かい何かが俺に流れ込んできている。
それは3種類あって、俺の中で俺に溜まり、混ざっていく。
(なんだろうこれ?そして此処はどこだ?)
暗く、暖かく、懐かしさを感じる。
(心地が良い、こうして目を瞑っていると寝てしまいそうだ。)
何か違和感を覚えて、そもそも俺は考え事をしていたのではないかと思った瞬間、目が覚めた。