病院3
まるで、状況が理解できなかった。
色々な事が起こりすぎて、俺の処理限界を超えてしまった。
状況がまずい事は漠然とした感覚でわかるが、どうしたらいいか、どうすればいいか、という思考が回らない。
いや、本当にまずい状況なのだろうか。その判断すらうまくできない。
「いいですか、よく聞いてください。転生症とは言っても……」
お医者さんが何かを言っているが、うまく意味を掴めない。
転生症。
その言葉が頭の中を反響している。
聞いた事が無い病名だった。
確か、魔力量異常と言っていた気がする。
だから、俺の魔力量が異常な量だった、という事だと思う。
「……症状としては、幼少期の異常な保有魔力量、それに伴ういくつかの合併症の可能性……」
成人男性の平均という言葉から考えると、魔力量は普通より多かったのだろう。
しかし、なぜそれが転生という事に繋がるのか。転生者は生まれながらに、魔力が多いという特徴があるという事だろうか。
転生症とまで言われているということは、俺の他に転生者がそれなりの数居るという事だろうか。
まるで深刻な病名を告げる時のような、お医者さんの語り口。
「……は発症率はとても低い病気ですが、致死性の疾患では……」
転生病であること、即ち転生者である事が、大きな問題であるかのような雰囲気。
いや、そんなことは当たり前の事だろう。
(転生者とわかったらどうなる?どんな目で見られる?)
もしも、自分の子が、転生者だとわかったら。
俺ならどうする。
一切の態度を変えずに、その子に接する事は出来るだろうか。
「……また、症状として特異的な魔法行使能力が……」
別に、子どもに限った事ではない。
自分の知人が転生者だと知ったら。
果たして。
俺は以前と同じでいられるだろうか。
俺は目の前の結晶から目を離せないでいた。
母さんや、父さんの顔を覗くのが怖かった。
今から一歩だって進みたくなかった。
「……の多重性がこの病気の原因だとされていますが、しかしそれは……」
ずっと止まっていたかった。
だけれど、時間は進み続ける。
こぼれた水はもう盆には戻らない。
いや、最初からこぼれていた。俺がこぼしたのだ。
始まりからそうだった。今まで気づかれてなかっただけだ。
「……なので、お子さんは、」
こぼした水に溺れそうになっていた時、
「わかっています。」
一片の悲痛も、憤りも、懇願も感じさせない、凛とした声がした。
その光に、掬い上げられ、救い上げられる。
強く、そして優しく抱かれる。
「私がそうでしたから。わかっています。主人も、理解してくれる、してくれている筈です。」
「そう、でしたか。……では、私から言う事はありませんね。」
静寂に包まれた中、
――私は、あの人達みたいには――
ほんの微かに、水面の光が揺らいだ気がした。
お医者さんが測定器具を片付けて、戻ってきた。
「えーと、合併症を発症する可能性等もあるので、これからは月1回、健康診断をしましょう。」
「今日はもう、帰っていただいて大丈夫です。」
母さん達は、待合室に戻り、会計を済ませ、車に戻った。
俺はもう、しがみつくことで精一杯だった。
目の前にいっぱいいっぱいで、他の事は考えられなかった。
いや、考えたくなかった。
そうして、俺は、いつしか寝てしまっていた。
寂しい夢を見た。
おとなは「わたし」につめたかった。
まわりのみんなはあたたかかったけど、あるときからつめたくなっていった。
だんだんと、冷たく感じなくなってきたけど、溝を感じ始めた。
魔法が得意だったけれど、嬉しくはなかった。
勉強も頑張ったけれど、寒いままだった。
雲の上は寒くて、空に囚われていた「私」は、地上を見上げてた。
こんにちは、鰹節です。棚から腐りかけのぼた餅、みたいな事がありまして。それと、この話を書き上げるのに、自分の文章力と表現力等々が全く足りていない、という事実が相まって、投稿が遅れた次第です。何でもはしませんが、許してください。