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誕生日3

 わかっていた。寝たって心の動揺が無くなるわけではない。


 でも、ほんの少しだけ冷静になれた気がする。眠たくて思考が鈍っているだけかもしれないが。


 (冷静に考えてみよう。別に、性別が女性でも、大した問題じゃないんじゃないか?)


 いや、少し考えてみたが、どう考えても問題がある。


 伊達に17年も男として生きてきたわけではない。

 染みついた常識が、きっと邪魔をするだろう。


 そもそも、何よりもまず、自分の心との差異が大きすぎる。


 将来の事を考えると、気が重くなる。

 未来には問題が山積みになっている筈だ。


 (止めよう、気が重くなるだけだ。どうせ何時かは直面するだろうが、これは直面した時の俺に任せよう。)


 寧ろ、今は逆に楽しい事を考えるべきだ。


 そう、例えばおしゃれが楽しめるとか。


 (いや、別に男でも楽しもうと思えば楽しめるんだよな。結局は自分がどう在ろうとするかでしかない。)


 それに、おしゃれは我慢、なんて言葉があるように、おしゃれも気楽なものではないだろう。


 他には何かあるだろうか。気兼ね無く、スイーツを楽しめるとかかだろうか。


 (これもまあ、男でも出来ることではある。何か違う気がする。)


 これといった事を思いつかない。どうやら、苦楽はすべて未来の自分に任せるしかないようだ。


 そういえば、俺が寝ている間に父さんが帰って来ていたらしい。

 今ちらっと姿が見えた。


 お腹が減ったな、と思っていると、母さんが俺のそばにきて抱き上げた。

 しかし、ご飯をくれるという訳でもなく、俺を抱いて歩き始めた。


 お風呂だろうか。今までお風呂の時は大体目を瞑っていたが、目をかっ開いてみていれば、自分の性別にも気が付けたのだろうか。

 ただ、細部が良く見えるわけではないし、体洗っている時は水とか石鹸とかが目に入りそうで目を瞑っていたのだ。


 それに、少し目のやり場に困るというのもある。

 今更気にする事では無いのだろうが、何となく遠慮の気持ちがあったのだ。


 しかし、俺が連れていかれたのはテーブルだった。


 椅子に座らされる。

 赤ちゃん用に脚が高くなっている椅子だ。


 (これはもしかして、離乳食デビューか?)


 いつ頃離乳食になるかと、ずっと考えていたが、ついにこの時がきたのか。


 俺の目の前に小皿がおかれる。

 小皿には、何か黄色い物がちょっと入っている。


 (なんか、小さいというか、少ないな。最初はちょっとずつという事か。)


 俺が初めての離乳食に感動していると、父さんが、


 「楓、6カ月の月誕生日おめでとう。」


 と祝ってくれた。


 (そうか、生まれてから、もう6カ月もたったのか……。)


 節目の日に離乳食を始めたということか。


 「楓、ここまで元気に育ってくれて、ありがとう。これからも、ずっとこのまま、元気でいてね。」


 そう、母さんが言った。


 有難い事に、生まれてから病気に罹ったことは無く、それゆえ実感も湧きにくいが、本来赤ちゃんの体は脆いものなのだ。

 大人に比べればはるかに免疫力は弱いし、物理的な肉体強度も言わずもがなだ。


 自分の事の癖にあまり実感が無いが、健康に育つというのは、本当に大変なことなのだろう。


 (寧ろ、ここまでちゃんと健康に育ててくれた事を、俺が感謝しなきゃいけないな。)


 (ありがとう、父さん、母さん。)


 さて、勿論多大な感謝の気持ちはあるが、どうしても目の前の黄色いやつが気になってしまう。


 「ははは、楓は離乳食に興味津々みたいだね。食べてくれるか、少し心配だったけれど、これなら大丈夫そうだ。」


 父さんが黄色いやつを小さなスプーンですくって、俺の口元に運ぶ。


 (そういえば、歯はまだ全然生えていないのだけど、どうやって咀嚼するのだろう。歯茎でするのか?)


 口の中に運ばれた黄色いやつは咀嚼の必要がないペースト状のものだった。


 (甘くて美味しい。久しぶりに普通の食べ物を食べた。少し感動だ。)


 良く味わいながら、飲み込む。


 (この味……、サツマイモみたいな味がする。)


 「よかったあ。食べてくれたよ。頑張って作った甲斐があったよ。」


 それを聞いて俺は少し驚いた。


 (えっ、これ、父さんが作ったのか。てっきり母さんが作ったのかと。)


 何か少し申し訳ない気分になる。


 これがサツマイモ、もしくはサツマイモっぽいものから出来ているなら、裏ごしなどで結構な手間がかかったはずだ。


 (ありがとう、父さん、そしてちょっとごめんね。)


 離乳食は初めてということもあってか、本当に一口分しかなかった。

 まあ胃袋の都合とかもあるだろうから、仕方がないことだろう。


 ちょっとずついっぱい食べられるようになればいいのだ。


 さて、あとは母乳を貰って、お腹いっぱいになってから寝るかと思った時。


 「後はこれね、ママとパパからの誕生日プレゼント。」


 そう言いながら、母さんは俺の目の前に、そこそこの大きさの色のついたガラス玉のようなものを置いたのだった。

投稿が遅くなってしまって、すみませんでした。この先、多少更新が滞ることもあると思いますが、エタることだけはしないようにします。

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