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見える世界

 生まれてから3カ月ほど経っただろうか。


 目もだいぶ見えるようになってきた。

 赤色の他にも、まだ完全ではないかもしれないが、ある程度の色を認識できるようになった。

 視力そのものも、滅茶苦茶にぼやけてはいるが、一応物が見える程度にはましになってきた。


 前世では眼鏡をかけていたが、眼鏡を外した時位の視力はあるかもしれない。ただ、少し見え方が違うような気もするが。

 近くは良く見えて、遠くがぼやけるという状態ではなく、全体的にぼやけている感じだ。


 目が良く見えないと言っても、近視とはまた違う状態なのだろう。


 この目の発達と、昨日父さんが持ってきてくれた物のおかげで、少しだけこの世界の事が理解できた。


 父さんが持って来てくれたのは、色々なぬいぐるみみたいな物が吊るしてある奴だ。

 買ってきてくれたのか、それとも作ってくれたのか。何はともあれありがたい。 


 まあ、ただ見ているだけでも、天井を眺め続けるよりはよっぽど面白いが、これの真価は娯楽ではない。


 このぬいぐるみっぽいものは多分、動物がモデルになっている筈だ。

 細部はわからないが、およその形状と色がわかればどんな動物かは理解できる。


 さて、1日程暇なときに眺めていたが、このぬいぐるみ達は、恐らく全て俺の知っている動物がモデルになっている。


 亀とクジラと魚と鳥、ライオンと狐と象と兎、そして犬と猫。


 意外な事に、俺の知らない動物のぬいぐるみは無いようだ。

 異世界ともなれば、寧ろ知っている動物が全くいないのが当然だと思っていたが。


 しかし、人間が人間として存在している事を考えれば、然程おかしな事では無いのかもしれない。


 (まあ、ぬいぐるみはデフォルメされているし、人間の姿形も細かくわかっているわけではない。実際によく見てみれば、細かい違いがあるのかもしれないが……。)


 だが、大まかに見た時に、凡その特徴が一致しているというのはとても妙だ。

 似た姿形をしているという事は、似た進化の歴史を辿ってきたという事でもあるだろう。


 生物の進化には自然環境が大きく関わっている筈だ。

 という事は、この世界の自然環境はかなり元の世界、地球に近いという事になる。


 いや、自然環境だけではない。生物の進化は自然災害などによっても変化が生じる筈だ。


 大絶滅等が良い例だ。

 果たして、似たような環境だからといって、長い時間をかけて進化してきた結果が同じようになることなんてあるのだろうか。


 進化の歴史は最適化の歴史とも言えるだろう。となれば、似たような初期条件からは似たような結果が導かれるのだろうか。

 しかし、僅かな違いが大きな差異を生み出すことは無いのだろうか。


 (もしかしたら、この世界は元の世界に似ているどころではなく、パラレルワールドのような世界なのか?)


 いや、もしかして俺はただ生まれ変わっただけなのかもしれない。

 今まで異世界に来たと思っていたが、実際はただ記憶を持ったまま転生しただけという可能性すら出てきた。


 (確かに、異世界転生よりは、只の転生の方が現実味があるか?いや、転生した時点で現実味も何もないか。)


 もう少し大きくなって、実際に見てみないとここら辺はわからないだろう。


 パラレルワールドのような所ならば、言語とかも同じだと嬉しいが、流石に望み過ぎだろうか。

 最も言語が同じだとしても、日本語でなければ大して使えないから関係ないかもしれない。


 元の世界でも日本語が通じるのは基本的に日本だけだ。英語ならば様々な所でも通じる可能性があるが。


 ただ、少しずつ耳も発達してきてはいるが、父さんと母さんの話している言語が知っている言葉に全く聞こえない。

 例え、英語を話せたとしても、大して変わらない可能性が高い。


 やはり、何にしても、もう少し成長しなければどうすることも出来そうにない。


 早く大きくなりたい、と思った自分に俺は少し笑ってしまった。


 (高校生の時は、寧ろ今のままでいられたらいいのにって思っていたのにな。)


 早く大人になりたい。子供の時分にもそう思った事があった。しかし、実際に大人に近づくにつれて、大人というのがただ良いものという訳ではないことを知った。


 自由であるというのは同時に責任を負う事であると知ったのだ。子供の時には気楽に思えた大人が、実際には違うと気が付いた。


 しかし、一度は大人に憧れ、その後停滞を望んだ俺が、再び成長を渇望するとは、皮肉が効いている。


 人生を語れる程、生きてきたわけではないが、それでも人生というのが儘ならないものだと、俺は思わずにはいられなかった。

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