来訪者2
次に起きた時、おじいちゃんとおばあちゃんは居なかった。既に帰ってしまったようだ。
存外に早く帰ってしまったようだ。子育てで大変な中、長居をするのも迷惑だと思ったのだろうか。
母さんの事を考えれば、ありがたい事かもしれない。
しかし、寝る前に見たおばあちゃんのあの行動は、何だったのだろうか。
一体何故、俺の事をそんなにまじまじと見ていたのだろうか。
いや、見ているというより、観察してるといった感じだった気もする。
しかし、俺に見どころなんて特に無いと思う。
特に変哲も無い赤ん坊の筈だ。いや、転生してこの体になっているのだから、変哲も無いというと語弊があるかもしれないが。
とはいえ、転生者という一点を除けば本当にただの赤ん坊だと思う。生まれながらの才能なんて持っていない。
少なくとも俺はそう思っている。
そもそも、生まれながらに絶対的な才能を持っている奴なんているのだろうか。生まれた環境や背景が組み合わさった結果、才能と俺達が呼ぶものが出来上がるのではないだろうか。
もしかしたら、本当に生まれた時から、正しく天賦の才を持つ奴もいるのかもしれないが、残念なことに、俺はきっと違うだろう。
とすれば尚更、なぜあんな風に見られたのかがわからない。
まさか、見ただけで転生者とわかる筈もない。仮にわかるとしても、そうだとしたら、もっと大事になっているだろう。
いや、見ただけで転生者を転生者と判別できるのならば、この世に転生者が溢れていることになるだろうから、珍しい事でも無くなっているのかもしれないが。
そうだとすれば、何かしら転生者のみに見られる共通項を見つけられたという事だろうから。
実際の所、転生者はどれ位いるのだろうか。
俺自身の事を考えれば、異世界からでなくても、所謂生まれ変わりのような者も存在するとは思う。。
全部をひっくるめて転生者と言うならば、俺以外に居ても全く不思議ではない。
しかし、転生者が俺以外に存在すると仮定して、彼らの自我はどうなっているのだろうか。
こうして転生者について考えると、今まで考えないようにしていた疑問がどうしても頭をよぎる。
俺は本当に、父さんと母さんの子供と言えるのだろうか。という事だ。
ライトノベルにおける異世界への行き方は主に2通りに分けられる。
異世界転移と異世界転生だ。
死ぬこと無く、何らかの方法で異世界に行くのが異世界転移。死んで異なる世界で生まれ変わるのが異世界転生。
偶に異世界の方が現実世界に融合してくる場合もあるか。
異世界転生において、転生するパターンはいくつかあると思う。
1つ目は自分の姿に転生するというパターンだ。
トラックなり何なりで死んで、異世界で元の姿で生き返らせてもらうという流れだ。
2つ目は1つ目のパターンで元の姿ではない、何か違う姿に転生するパターン。
ただ、これにはいくつかのバリエーションがある。
ある程度成長した姿で、生まれるというより、生じるといった感じで転生するパターン。
ある程度成長した後で、前世の記憶を思い出すといったパターン。
最初から前世の記憶を持っているパターン。
そして、誰かの意識を上書きして乗っ取るパターンだ。
あくまで創作物において、であるから、現状をよく表しているとは言い切れないが、参考にすることはできる。
俺は、最初から前世の記憶を持っているパターンだと思っていたし、今も思っている。しかし、どうしても、誰かの意識を乗っ取ってしまった可能性を否定できない。
俺が最初だと思っているのが、最初ではないかもしれない。
この体に元々存在した赤ちゃん自身の意識を、上書きして消してしまった可能性を消す事ができない。
勿論、この問題に答えは出せないだろう。そもそも、何をもって意識とするか、意識がどの時点で生まれているかすら俺にはわからないのだ。
だから、この問に意味は無い。考える意義はあるが、意味は無いのだ。
でも、思ってしまう。いつかわかる時が来るのだろうか、それとも一生この事を背負い続けるのだろうか、と。
本当は父さんと母さんにこの事を伝える事が正しいのかもしれない。だが、今の俺には、その勇気も覚悟も存在しなかった。
(こんな事を明かしても、きっと誰も幸せにならない筈だ。この秘密は、俺が墓場まで持っていこう。それがきっと、正しい選択の筈だ。)
俺は、微かな不安と罪悪感を頭から振り払うようにして、夢の世界に逃げ込んだ。