初めての外出
今日は変化があった。
何処かに出かけるらしい。車のようなものに乗せられた。
結構テンションが上がる。例え目が見えなかったとしても、外に出かけられると思うとワクワクする。
車に乗った最初の方は、そんな浮かれた気分だった。
しかし、冷静になってみると、この状態で外に出ても別に楽しい事は無いのではないかと考え始めた。
そもそも、この位の小さい赤ちゃんを一体どこに連れて行くというのだろうか。
俺が連れていかれたのは、懐かしさを感じる場所だった。
ここは恐らく、俺が生まれた場所、病院である。言いようは無いが、雰囲気で感じられるものがある。
しかし、ここが病院だとして、なぜ病院に連れて来られたのだろうか。俺は病気に罹った覚えはないのだが。
前の世界で、病院に病気の治療以外でかかったことは、予防接種の時ぐらいだった。
確かに、前の俺の腕には、幼い頃の予防接種の痕が残っていた。つまり、小さい頃に予防接種をするというのは、十分にあり得る事だろう。
あり得るだろうが、いくら何でも、小さすぎないだろうか。
(いや、父さんが人間ドックのために病院に行っていたことがあったな。)
赤ちゃんは大人に比べれば、遥かに体が脆いだろうから、定期的な健康診断は必要かもしれない。
まあ、予防接種でも健康診断でも、恐らくやって損をすることはないだろう。
母さんが俺の事を抱いたまま、何処かに座った。恐らく待合室だろう。普通、病院の待ち時間は長くなる気がするが、どれほど待つ事になるだろうか。
長く待つかと思っていたが、意外にも早く俺達の番が来たのか、父さんと母さんは俺を抱いて歩き出した。
少し歩いた後、俺は抱き下ろされ、ベットのような物に寝かされた。
ベットにしては少し硬く感じる。診察台のようなものに寝かされたのだろうか。
横を見ると、誰かが居た。お医者さんだろうか。
その誰かは何かを言いながら、俺の体をペタペタと触り始めた。
(この感じ、前に一度された触診のような何かか?)
ただ、触っているというより、触れているといった感じで、触診なのかと言われると首を傾げざるを得ない。
全身を触られた後、胸や腹に何かをあてられた。
その後しばらくの間、その誰かは父さんと母さんと話をしていたが、話が終わると何処かへ行ってしまった。
入れ替わりになるように、誰かがやってきて、母さんと短く話した後、母さんが俺の口に何かをあてがった。
哺乳瓶だろう。ここ1カ月程で何度も使われきた。家では多分、水とかを飲ませるのに使っていたのだと思う。
これには何が入っているのだろうか。そういえば、前にもこんな事が有った気がする。
なぜ今哺乳瓶を使われたのか、脈絡を掴めないが、取り合えず口に含んで中身を吸い始める。
水の様に味を感じられない。最も今の所、母乳がほんのり甘く感じるような気がする以外、味を感じられた試しは無いのだが。
中身が出なくなった。飲み終わったのだろう。口から哺乳瓶が離され、母さんが俺を抱きあげた。
そしてそのまま立ち上がって歩きだした。
(え?もう終わったのか?結局俺は何をされていたんだ?)
当たり前だが、誰も俺の疑問に答えてはくれない。
少し間、再び待合室で座っていたが、父さんが居なくなり、帰ってきた時には母さんも立ち上がり、そのまま歩いて病院を出て車に乗り込んでしまった。
別に悪い事では無いのだろうが、スピーディーすぎる。
当たり前だが、その後寄り道をすること無く、家に着き、俺の初めてのお出かけは終わってしまった。
鰹節です。少し忙しく、更新が滞っていますが、まだエタりはしません。もうちょっとだけ続くんじゃ。