新しい日常2
平凡な日々が流れていく。
もうそろそろ、生まれてから1カ月位経つと思う。
(そういえば、この世界の暦はどうなっているのだろう。流石に暦はあると思うが。)
暦に限った話ではないが、俺はこの世界の常識を全く知らない。
例えば、物価、物の単位、文化、細かい所を上げれば切りが無いはずだ。
もしかしたら、今まで勉強していた科学的知識が役に立たない可能性もある。
さすがに数学の知識は腐ることは無いと思うが、化学や生物、物理はちょっと怪しいかもしれない。
(いや、今俺が存在する、つまり炭素生命体が存在するという事は化学の知識が役に立たないってことは無いのでは。)
しかし、自分が炭素生命体、延いては、そもそも俺の思っている人間という生物とは決定的に違う可能性もある。
目が良く見えないが為に、人間と思っているものが人間であるという確証を得ることが出来ない。
自分はおろか、父さんや母さんの姿形さえ、はっきりとはわかっていない。
(もしかしたら、よくあるタコ型火星人みたいな姿だったり……。いや、流石にそれは無いか。)
少なくとも自分の体に意識を向ければ手と足がそれぞれ一対あることはわかる。少なくとも所謂人型ではあるだろう。
つまりタコ型ではないという事だ。グレイ型ならあるかもしれないが。
(まあ、意外と化学の知識なら役に立つのかもしれないな。とはいえあんまり難しい内容は覚えてないから、簡単な事しかわからないが。)
もう少し、真面目に勉強しておいた方が良かったな、と少し後悔した。
なんで、ゲームのキャラとか敵とか、技とかは覚えられるのに、化学反応とか公式とかは覚えられないのだろうか。
ゲームの知識なんて、今のこの状況では大して役に立たないだろう。
もしも、ここが剣と魔法のファンタジー世界なら役に立ったのかもしれないが。いや、それでも科学的知識の方が大事な気がする。
例えば、物理学そのものが通じなくても、その根本となる考え方は、きっと役に立つだろう。
(一見何に使うのかわからなくても、考え方を学ぶのは大事な事だったんだろう。)
しかし、残念ながら俺は、勉強に費やすべき時間の多くをゲームだったり、友達との遊びだったりに費やしてしまった。勿論、後悔はない。
偶にゲームで覚えた知識や思考が、勉強とかでも役に立ったこともあったが、もしかしたら、今でもそんなことがあるかもしれない。
(覚えている事だけでも、脳内で忘れないように、復習をしておいた方が良いかもしれないな。)
幸い、暇な時間は掃いて捨てる程に有る。父さんや母さんとのふれあいの時間以外は、最近は専ら空想に耽ることが多い。
前の世界で読み漁っていたネット小説みたいな奴だ。最もこれ以上転生したいとは露程も思わないので、飽くまで暇つぶしの妄想に過ぎないが。
(というかそもそも、俺の今の状態こそネット小説みたいな状態だと言える。)
テンプレな展開だと、赤ちゃんの内に魔力の存在に気が付いて、有り余る時間を魔法の練習に使うっていうのが王道だろう。
一応色々とやってみたが、魔力を感じる事なんて出来なかった。そもそも魔法なんてこの世界に存在しないと思うが。
中世ファンタジーの世界とはとても思えない物を、例えば車っぽい物とか、エレベーターっぽい物とか、体験してきた。
実は、現代ファンタジーの可能性もあるのかもしれないが、どうだろうか。
ファンタジー物でも、人間は魔法を自力では使えない場合もあるから、俺が魔力を感じられなかったとしても、魔法は存在するのかもしれないが。
そういった場合は人間以外の、エルフとか、ドワーフみたいな種族が出てくることが多い。その場合だと俺が人間ではない可能性もあるのかもしれない。
そろそろ眠くなってきた。考え事をしていると眠くなってくるのだが、だんだんと眠くなるまでの時間が伸びてきた気もする。
寝る前にお腹いっぱいになっておきたかったので、母さんに必死にアピールし、お腹いっぱいになったところでそのまま、夢の世界に落ちていった。