まだ見ぬ世界
昨日に引き続き、今日も朝から父さんが来ていた。
昨日とは違い、何かせわしなく動きながら、時折、母さんと何かを喋っている。
一通りの片が付いたのか、父さんが落ち着いてからちょっとすると、2人程誰かがやってきた。
その人達と父さんが少し会話をした後、母さんが俺を抱き上げ、立ち上がり、部屋の外へ歩き出した。
父さんは、母さんに寄り添うように歩きながら、俺に話しかけていた。
(部屋替えか?いや、これは退院か?)
今までの体験から、俺はここを恐らく病院だと思っている。その上で、病院の部屋、病室から出て、家族揃って何処かへ向かうとなると恐らく退院だと思う。
退院だとすれば、俺はこの世界に来て初めて、この建物の外に出ることになる。残念ながら、風景をまともに見ることは出来ないだろうが、それでも初めて外に出るというのは少し心が躍るものがある。
それと同時に、少し不安な気持ちもあるが、父さんも母さんもいる。心配はいらないだろう。
一人でドキドキしていると、揺れが収まった。歩が止まったようだ。ここが目的地なのかと思った瞬間、体を浮遊感が襲った。
(うっ、この内臓が浮くような感じ、いつ体験しても嫌な気分になるが、でもなんでいきなり。)
ジェットコースターとか絶叫マシンで上から下に急降下するときに感じるあの感覚だ。あれが醍醐味だなんてほざいてた奴が居たが、全く理解が出来ない。気持ち悪いだけじゃないか。
幸い、直ぐに浮遊感は収まったが今度は下に押し付けられる感覚がした。ちょっと苦しい。
父さんや母さん達は何事もなかったかのように、再び歩き出したようだ。
(何だったんだ、今のは。なんで病院の中に絶叫マシンもどきがあるんだ。)
俺は本当に嫌いなんだ。
少し泣きそうになるのを堪える。
ここに来てから、少し情緒が不安定になっている気がする。精神的負荷が掛かりすぎているのだろうか。
別にあんなのは大したことはない、と自分に言い聞かせる。やや落ち着きを取り戻しつつ、先ほどの絶叫マシンもどきについて考える。
答えは意外と直ぐに見つかった。エレベーターだ。
俺の知っているエレベーターはあんなに内臓がフワッとはしないが、あれがエレベーターの一種だとすれば、一連の現象に説明が付く。
上の階から下の階に急降下すれば、あの様になるだろう。
内心であのエレベーターの製作者に文句を言っていると、急に周りが明るくなった。
いや、元々明るかったのだから、眩しくなった、とするべきだろう。
(外に出たということだろうか。暖かい。太陽に照らされている気がする。)
父さんと母さんは、病室から一緒に来ていた2人に何かを、多分、お礼を言って、再び歩き出した。
(これは無事退院ということなのだろうけど、ここから家までどうやって帰るのだろう。)
抱かれるがままにしていると、急に周りが少し暗くなった。
今どういう状況だろうか、母さんは多分何かに座っている。一瞬、父さんを見失ったが、すぐに母さんと俺の前に現れて、母さんと同じ様に、多分何かに座った。
そうしていると、また体が押し付けられるような感覚がした。ただ、今度は下ではなく、横にだ。
(何か乗り物に乗ったっていう事なのか?なにか、こう、車みたいな物に。)
そこそこ揺れが激しい。これはなんだろうか。まさか本当に車、自動車のようなものなのだろうか。
もしも、もしもそうだとすれば、驚かざるを得ない。
(もしもそうなら、この世界には実用化されたエレベーターや自動車があるということになる!)
前にそれなりの文明水準があるのでは、と思ったが、ともすれば、それなりどころではないかもしれない。
(それにしても、揺れがすごいな。さっきのエレベーターもこの車も、技術レベル的には元の世界程にはまだ達していない、という事なのだろうか。)
お腹が減っているのだが、こんな状況では、落ち着いて飲めそうにない。
仕方がなく、まだ見ぬ家に思いを馳せ、荒っぽい揺り籠に揺られながら、俺は目を閉じた。
鰹節です。一応ある程度の構想を持って書いてはいるのですが、ここら辺から設定ガバが出てくると思います(今までにガバが無いとは言っていない)。この先、もしくはこれ迄で、何か見つけましたら、生暖かい目でスルーするか、私にそっと教えてください。