第8話 新規受注祝い
いろいろあったお盆の連休が終わり、「でかい案件の仕事」が始まった。しかし、客先との重要なプレゼン前にどうやら様子のおかしな柚木が…。
第8話です。お楽しみいただければ幸いです。
お盆の連休が開けてから数日。そろそろ、体のリズムも戻ってきた頃だ。朝、優斗がいつも通り出社すると、葛城に「いくぞ」と言って結美と一緒に連れ出された。
「今日は、お客様が来る。前に言ったでかい案件の相手だ。応対は、本間さんと柚木がする。そこで、俺たちは会議室のセッティングと補佐だ。松谷にお茶出しとか書記を任せるから、佐藤は俺と雑務だ。」
「えっ、雑務ですか?」
「おう。会議室の掃除とか各部署への書類届け、お客様の案内とかだ。まずは、松谷にいろいろ教えるから、佐藤はこの会議室の掃除を頼む。」
葛城は、そう言うと結美を連れて給湯室の方に向かった。優斗が、掃除道具を出してきて掃き掃除をしていると、荷物を抱えた柚木が入ってきた。
「あ、優斗君。ごめん、ちょっとこれ持ってくれる?」
「ああ、はい!」
そう言って荷物を半分持つと、柚木は机にドサッと書類の束を置いて、ため息をついた。
「ふう。重かったー。今時、紙の書類とかないでしょ?あ、そういえば!」
少し愚痴が出かかった柚木は、キラキラした顔を優斗に向けてこう言った。
「優斗君てさ、結美ちゃんとどうなの?」
「どうって言うのは…?」
「好きなの?」
突然の質問に、思考が追いつかずに固まる。まさに、寝耳に水な話だ。
「い、いや…えっ?突然なんですか?」
「この前、一緒に歩いてるの見かけてさ。どうなのかなって。」
確かに家にも入れたし、手料理も振舞った。それに買い物も行った。彼女は可愛いと思うが、これといって特別な感情は無かった。
「どうって言われても、ただの同期ですよ?」
「そう。じゃあ、うちの班の女性陣、3人いるけどぶっちゃけ誰が好み?あ、やっぱり私は入れなくていいよ。悠里さんと結美ちゃん、どっちが好み?」
優斗が、どう答たものかと質問に戸惑っていると、ドアが開いて葛城が入ってきた。
「おう柚木。準備は大丈夫か?今日プレゼンだろ?ちゃんと資料確認しとけよ。それと、佐藤。案内する経路の確認行くぞ。」
優斗は、ナイスタイミングとばかりにドアへ向かう。出る時にチラッと柚木を見ると、不満そうに膨れていた。
「まずは、受付からだ。10時にはそこで待機するぞ。とその前に、」
葛城が振り返ってニヤついている。
「さっきの質問、誰が好みなんだ?」
「えっ、聞いてたんですか?」
「俺も気になる。うちの女性陣、美人ばっかだからな。純粋で真っ直ぐな松谷か、ああ見えて意外と切れ者の柚木か、お持ち帰りに成功してる本間さんか。俺はそうだな…」
葛城がいろいろ語っていると、彼を呼びつける声がした。
「葛城君!こんなところで油売ってない。この書類、受付に渡してきて。」
悠里が歩いてきて葛城に書類を渡す。去り際に優斗にウインクしたが、どうやら彼しか気付かなかった様子の優斗も意図は分からなかった。
そんなこんなありながらも何とか準備が終わり、お客様の来る時間になる。リストには、世間に名の知れた会社の名前が書いてあった。目を見張りながらも、粗相の無い様に会議室へ案内する。その後は、室内の末席に座って見守る。柚木のプレゼンは、客先のお気に召したらしく首尾よく仕事をもらえることになった。そのあと、今後の段取りや日程について打ち合わせ、お客が帰ったのは定時に近かった。今後の仕事は、班全員に振り分けられる。優斗は、それなりに多くの量を回されたため、今日中にやることの整理をして帰ろうと残業することにした。残業前に休憩をはさんで戻ってくると、班のオフィスには悠里しかいなかった。
「ん?佐藤君帰らないの?」
「ええ、やることを整理しようと思ったので。」
「そっか、結構量お願いしちゃったしね。でも、みんなご飯行っちゃったよ?」
「あ、そうなんですね…。」
行けば夕食代浮いたかなとか考えたが、今から行ってもどうしようもないと思いパソコンに向かった。1時間ほどして、そろそろ帰ろうと支度を始めると、課長に呼ばれたと出て行っていた悠里が戻ってきた。
「佐藤君、もう帰るの?」
「はい。何かありましたか?」
「ちょっと待って、私も終わったから帰る。それと飲みに行こう。私達だけ行ってないのはなんか嫌だから。」
優斗は、記憶が呼び起されて「マジか」と思ったが、断れるわけでもない。結局奢ってくれるというので、ついて行った。 行った店は、会社の最寄り駅の前にある飲み屋街の一軒。店内に入ると、早速席についてメニューを広げる。
「今日は、新規の受注祝いだから好きなだけ頼んでいいよ。まあ、立役者はいないけど。」
悠里はそういって笑うと、店員に「とりあえず生!」と注文した。優斗は飲まないので、料理を食べながら悠里を観察する。今日はそこまで飛ばすこともなく、程よく酔っているようだ。すると、ほんのり顔を赤くした悠里が、もじもじしながら話しかけてきた。
「優君、あのさ…話があるんだけど。」
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