第6話 酒豪の爪跡
連休前、優斗の家にやって来た悠里。夕食後、今夜は泊まると言い出した。優斗が風呂から出ると、酒豪を発揮して、艶やかさ全開の悠里。その日は、そのまま寝てしまった悠里と、前日悠里の酒豪シーンを初めて目撃した優斗は…。
翌朝、優斗は賑やかな小鳥の鳴き声で目覚めた。久しぶりにソファーで寝たせいか、体のあちこちが痛い。痛みを堪えて起き上がり、寝室の様子を確認する。悠里は、気持ちよさそうに寝息を立てていたが、暑かったのかキャミソールで寝ていた。昨夜の記憶も思い出されて、それを見なかった事にした優斗は、、そっと扉を閉じてキッチンに向かう。昨夜は、多少刺激的な経験をして、何とも言えないモヤモヤが未だに残っていたが、一旦置いておくことにした。今朝は、昨夜の悠里の事を考えてしじみ汁にしようと思い、冷蔵庫を覗こうとすると、スマホの通知音が鳴った。
「ん?誰だ?」
画面を確認すると、結美からだった。
「おはよー。連休東京にいるって聞いたけど本当?」
突然の質問に疑問符が浮かぶが、とりあえず返信する。
「そうだけど?なんかあった?」
しばらく待ったが、返信が来なかったので、しじみ汁に取り掛かる事にする。味付けは、どうやらいつも通りの方が悠里に合うようなので、あえて変える事はしない。出来上がりが近づいた頃、机の上に置いてあった悠里のスマホが鳴り出した。どうやらアラームがセットしてあったようだ。けたたましい音で鳴った為、優斗がビビるどころか悠里が起きる程だった。
いつものアラーム音がして、目が覚める。しかし、目に入ってきたのは見覚えのない天井と、知らない感触の布団だ。ふと、アラームの音がいつもより小さく、手の届く範囲にスマホが無いことに気づく。手をバタバタしていると、突然アラームが鳴り止んだ。誰が止めたような止まり方に心当たりを探ると、昨夜の記憶がフラッシュバックした。
「そっか…私、また寝ちゃったんだ。ん?でも…ひゃあ!」
自分の服装と、たまたま手に当たったTシャツから想像した出来事に、顔を真っ赤にして飛び起きた。
「佐藤君!あの…その…。」
勢い良く部屋を飛び出して、いろいろ問い詰めようとしたが、いざ顔を見ると何も言えずに固まってしまった。
「あっ悠里さん、おはようございます。もしかして携帯勝手に触ったの、まずかったですか?」
驚いた部下が、少し顔を赤らめている。その時、不意に前回の経験が思い出された。しかし、その可能性を考えつつも、恥ずかしさが拭えずに固まっていた。しかし、ずっとそうしている訳にもいかずに、意を決して口を開いた。
「ち、違うの…。そう、じゃなくてね。昨日の夜の私、変だったよね?」
「ま…まあ、確かにいつもとは少し違いましたね。急に優君とか…」
「ごめん!それ以上言わないで。」
優斗の口から、恥ずかしい事実が飛び出すのを食い気味に遮る。
「その事は誰にも言わないで。お願い。」
悠里の真剣な顔と声音を受け止めた優斗は、クスッと笑って承諾した。
「なによ。何がおかしいの?」
「いや、すみません。お互い恥ずかしいエピソードだなと思ったので。言いませんよ。誰にも。」
そこでほっとしたのも束の間。別の懸念が、悠里に押し寄せる。
「それはそうと…私、今朝ベッドで下着1枚だったんだけど、何か知ってる?」
その質問に、優斗は顔に赤みを少し足して答えた。
「し、知らないですよ。その…昨日は悠里さんが床で寝てしまったので、ベッドに運びました。」
「そ、その先は…?」
「その先は…布団をかけて、僕はソファーで寝ました。」
「嘘。私、寝てる間に服脱がないし。」
それを言われても…という顔で困る優斗と、恥ずかしさを堪える為に、優斗の所為にしたい悠里の視線がぶつかる。しかし、真実と押し付けの勝敗は、すぐについた。
「ごめん。佐藤君がそんな事しない人なのは知ってる…。」
悠里は、目を逸らしてそう言った。少しの間、そのまま沈黙していた2人だったが、悠里のお腹が空腹を訴えた。悠里が恥じらい優斗が噴き出す。優斗は、怪訝な表情で自分を見つめる悠里に、朝食を勧めた。
悠里は、今朝の味噌汁がしじみ汁であると知ると、目を輝かせて喜んだ。最初こそ、不満そうな顔をしたものの、優斗の味噌汁の味を知る悠里に、選択肢は無いに等しかった。一口汁を含むと、一気に海鮮系のだしの味が口いっぱいに広がる。
「おいしい!いいだしが出てるね。それに、お酒の次の日に飲むとまた違うね。今まであまりやらなかったから、今度自分でもやってみよう。」
悠里が部下の手料理に舌鼓を打ち、優斗が上司の笑顔に満足感を得ていると、優斗のスマホがメッセージの受信を知らせた。相手は結美で、さっきの返信のようだ。
「あ、別にそういうわけじゃないの。私も連休中は帰らないから、ご飯でもどうかな?と思ってね。空いてる日とかあれば教えてほしいな。」
どうやら、食事のお誘いのようだ。どうしようかと考えていると、今度は悠里のスマホがメッセージの受信を知らせた。
「おはようございます。悠里さん、連休中に時間ありますか?あれば、飲みに行きませんか?連絡お待ちしてます。」
悠里は、柚木に誘われた。悠里も優斗も、相手にそんな連絡が来ているとはつゆ知らず、了承の返事と日程調整の連絡をした。
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