第5話 酒豪発揮⁉︎
お盆の大型連休前日。優斗の家で晩御飯を食べようと訪問した悠里は、お酒を買ってきていた。そこから晩御飯を食べた後で…。2人の関係は、どうなっていくのか?
書こうと思うことを書いていたら、少しばかり伸びてしまいました。続きのお話です。
お盆の連休前。「晩御飯が食べたい」と仕事終わりに優斗の家にやってきた悠里は、優斗が最初に聞いた意外な事実「酒豪」のイメージ通りに、お酒を買ってきた。しかし、優斗が唯一目撃した悠里の飲酒シーンといえば、あの新歓飲み会で飛ばしすぎて泥酔し、熟睡して介抱された姿だ。思えば優斗は、一度も悠里の酒豪シーンを見ていない。こうなることを予想していたとはいえ、実際緊張するものだと優斗は感じていた。
「あれ?飲まなかったっけ?」
晩酌の誘いを断った優斗に、悠里が聞いた。
「僕は、新勧の時から飲んでないですよ。」
「あ、そっか。私あの時、やらかしたから見てないんだ。その節は、大変ご迷惑をおかけしました。」
そう言って、テへッと手を頭の後ろにあてた悠里は、勘違いを思い出して、少し赤らめた顔を見られないように、少し俯いた。
「いえいえ、僕が放っておけなかっただけなのでいいですよ。それじゃあ、仕上げだけやっちゃうので座っていてください。」
優斗は、話題を切り替えて悠里に席を進めた。そして、キッチンの作業に戻った。それを見て、悠里は席に座る。
今夜のメニューは、冷やし中華。優斗が帰りに買ってきた多くの野菜をふんだんに使った、具材マシマシVer.である。優斗のこだわりは、一般的に想像される冷やし中華とは比べ物にならない量の具材の多さと種類だ。一般的には、きゅうりや卵、ハムにトマトに肉といった具が乗っているイメージだが、優斗はこれに加えて玉ねぎとほうれん草を茹でて、柔らかくしたものを一緒に乗せた。また、肉は豚肉を茹でて粗熱を摂ってから乗せる。最後にゴマダレをかけて完成だ。
「おっ!冷やし中華?具沢山のさっぱりめかな?」
悠里が、期待を込めた目を輝かせている。
「今日は、このゴマダレをかけてみてください。お肉を豚しゃぶにしたので、合うと思いますよ。」
悠里は、毎回少しずつアレンジしてくる優斗に感心しながら、一口食べる。すると、ごまの風味が口いっぱいに広がるとともに、それに負けない具の触感を認識して自然と笑みがこぼれる。
「やっぱおいしいね!佐藤君の料理、私世界で一番好きかもしれない。」
「それは、言いすぎじゃないですか?」
悠里はいつもと同じ、満面の笑みで感想を言ってくれる。「この笑顔が見たくて料理しているのか?」とふと思う優斗であった。
冷やし中華を食べ終わり、優斗が後片付けをしていると、テーブルの方から「プッシュッ」という音が聞こえてきた。見に行くと、悠里が缶ビールを開けるところだった。
「悠里さん、もう飲むんですか?」
「ん~?そうしようかなと思ったんだけど、ダメだった?」
「あ、いえ…そんなことはないですけど、早めに帰られるのかなと思って。」
「あ~、それなんだけど…実は帰るのしんどくなっちゃってさ。今晩泊まってもいいかな?」
まだアルコールは入っていない筈だが、怪しく思える程に普通ではありえないことを言い出す。とはいえ、送っていこうにも優斗は彼女の家を知らない。プライベートなことを突っ込んで聞きにくい彼の性格は相変わらずで、こういう場合の対処は難しくなる。自分が折れる事が平和だと思い、今日は泊めることにした。しかし、そうなるといろいろ問題が出てくる。とりあえず、アルコールが入る前に風呂に入って貰う。その間に、ちょっとしたつまみを作る。冷蔵庫には、あいにく枝豆くらいしか無かったので、ど定番の塩茹でにする。悠里が出てくると、枝豆を出しておいて自分が入る。優斗が風呂から出ると、程よくアルコールの入っていい気持ちになった悠里が絡んできた。
「ん。優君出た〜?」
その第一声で、ここからは自分の知らない未知の人間が相手だと悟る。しかし、接し方が思い付かない優斗は、こう出るしか無かった。
「悠里さん、少し飲み過ぎじゃないですか?どれくらい飲みました?」
「ん〜?まだ、ちょっとしか飲んでないよ〜。」
そう言う悠里の前には、空いた缶が4〜5本転がっていた。その缶を片付けようとすると、伸ばした手を悠里に掴まれた。
「優君!私、肩凝っちゃった。マッサージして。」
そう言うと、そのまま手を引いて床に寝そべってしまった。ため息をつきながら、マッサージを始めようとして手が止まる。風呂に入るまで着ていた、見慣れたいつものスーツよりも、優斗が貸した少し大きめのTシャツを着ている悠里からは、息をのむほどの艶やかさを感じる。そもそもさっき手を掴まれてから、悠里から滲み出る色気を感じていた。このまま悠里に触れてもいいものか。電車でも話しかけられず、鞄の中も覗けない小心者には、少しばかり刺激が強かった。いろいろメリットやデメリットなどを考えているうちに、ふと気付くと悠里は静かに寝息を立てていた。
「これは…セーフだよな…?」
優斗は、寝ている悠里を抱きかかえた。こうなると起きない事を知っている優斗は、そのままベッドへ連れて行き、布団をかけて寝かせた。その後は、実際に目にした、悠里のある意味での酒豪シーンに頭を悩ませながら、ベランダで夜風に当たっていた。
「優君って、何だよ…。」
といっても中々飲み込めず、寝る事にした優斗は、ソファーに寝転び、モヤモヤしながら眠りについた。
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