第4話 連休前の訪問
悠里の弁当の要望を少し工夫して満たした優斗は、その後もたまに弁当をお願いされるようになる。そのまま数か月が経ち、お盆休み目前の時期になった。少し距離の縮まった気のしている2人は、連休をどう過ごすのか…。
そして、2人の関係を探っている班のメンバーはどうするのか…。
いろいろな動きがありそうな大型連休。まずは、前日のお話です。
優斗が、弁当を振る舞ってから約2ヶ月。あれから、毎週月曜日に2人分の弁当を作る日々が続いた。悠里は、毎週月曜日のお昼は自分の好みにどストライクな味の弁当が食べられるので、月曜日が楽しみになっていた。今日は、お盆休み前の最後の金曜日。休み前の最終日ということもあり、帰省や旅行に出かける話に花を咲かせる社員が多い。そんな中仕事をしていると、自然とそんな話題を振られる。
「なあ佐藤。お前、明日からどうするんだ?帰省とかするのか?」
葛城が何気なく聞いてくる。
「そうですね。実家が遠いので、こっちで過ごす予定ですね。」
優斗の実家は静岡なので、帰省するのにさほど遠くはないが、悠里から「ご飯食べたいから、いてくれると嬉しい。」というお願いがあったからだ。もちろんそんなことは、変な誤解を招くだけなので言えるわけがない。ここは、適当な理由を言っておく。
「そうか。そういえば、休み明けに一個大きめの仕事が入る予定だから覚えとけよ。」
「何やるんですか?」
「それはまだ俺も知らないんだが、本間さんによると何やら上層部の肝入りの企画らしいぞ。」
「そうなんですね。」と返事をしながら、連休中に悠里に確認してみようと思う優斗だった。しかし、そんな反応をする優斗を、勘ぐるように観察して何かを確信した葛城の視線には気付かなかった。
その日の夕方、定時までに仕事を終わらせようと作業している優斗のスマホが、メッセージの着信を知らせた。なんとなく予想が付いた優斗が、確認のために目をやると、画面には悠里からのメッセージが入っていた。「やっぱり。」と思った優斗は、とりあえず放置して後で見ることにした。
定時を過ぎて、帰り道に優斗がメッセージを開くと、こんなことが書いてあった。
「今日、佐藤君の家に行ってもいいかな?出来れば、晩ご飯食べたいなと思って…。少し残業するので遅くなる予定だけどどうかな?」
自分の上司は、すごいことを言い出すと思いながら「分かりました。準備しておきます。」と約束に従った返信をする優斗だった。
「帰りに食材買ってかないとな…。」
帰宅した優斗は、帰りに買ってきた具材を沢山入れた、冷やし中華を作る事にした。先日悠里に、弁当のリクエストで麺類を頼まれた時に、焼きそばや焼きうどんくらいしか思いつかず、モヤモヤしたのを思い出したからだ。弁当という制限は無いので、今日は好きなように作ることが出来る。それに、季節的な情緒や、恐らく予想通りの行動をするであろう悠里を念頭においた献立にした。そんな事を考えながら調理をしていると、インターホンが鳴った。
「お邪魔しまーす。遅くなってごめんね。」
「いえいえ、お疲れ様です。あれ?何買って来たんですか?」
「あっこれ?お酒買ってきたの。飲む?」
心の中で、予想が的中した驚きに加えて、徐々に悠里のことが分かってきた事を感じながら断る優斗だった。
2人がそんなやりとりをしている頃、それ以外の班メンバーは居酒屋にいた。
「賢哉さん、悠里さんと佐藤君ができてるって、やっぱりそうだったんですか?」
「ああ。今日、佐藤に聞いてみて分かった。ありゃできてるな。」
「えっ!ストレートに聞いたんですか?」
「それで馬鹿正直に答える奴なんて、いる訳ないだろ?連休明けにでかい案件があるからって言ったんだよ。」
「でかい案件って何ですか?」
「内容までは知らんが、予想すると新商品の展開とかじゃないか?」
「へぇ。それでどうやって聞いたんですか?」
葛城は、意外と社内の恋愛事情に興味津々な後輩女子社員2人に質問攻めにされていた。
「そのこと言ったら、佐藤は何か考えてる顔してたんだ。本間さんの名前も出したし、佐藤は連休中東京にいる。ありゃ本間さんに聞くつもりだな。」
ここまで明かすと、結美が思い出したように言った。
「そういえば今日、佐藤君の携帯に悠里さんから連絡来てるの見ました。」
「えっ!連絡先知ってるんだ…。それは怪しいね。それで?佐藤君の反応は?」
「その時は、チラ見しただけだったんですけど、帰りにメッセージ見たみたいで、その時は、よしって言って帰っていきました。」
「そりゃあれだな。連休中になんか進展あるぞ!2人の家知ってるか?」
柚木と結美は揃って首を横に振る。
「そうか…。誰か知ってれば、調査できたんだがな…。なんか方法ってもないか。仕方ないな、連休明けからまた探るか。」
葛城の一言で全会一致した3人は、各々自分の予想を立てて、連休明けにすり合わせと確認をすることにした。そして今日は、各々家庭や事情もあることから、飲み会を早めに切り上げて帰ることにした。
お読みいただきありがとうございます。
中には、Twitterの宣伝を見て読んでいただいた方もいるかと思います。まだ投稿し始めたばかりの未熟ものですが、気に入っていただけたのなら嬉しいです。
それでは、今後ともよろしくお願いします。