第3話 お弁当
新歓飲み会の帰りに、上司の悠里をお持ち帰り?した優斗。一方、そんな彼にある意味虜にされた悠里。微妙な距離感の二人の関係がどうなるのか…。
横からちょっかいが出るのか?出ないのか?
そんな全ての関係のキーになるお弁当の話です。
優斗と悠里の、微妙な距離感の関係が始まってから数週間後のとある月曜日。優斗は、いつもより早起きしていた。理由は、前日の突然な連絡にあった。あの土曜日、悠里が帰り際に連絡先の交換を申し出た。
「そうだ!まだ連絡先の交換してなかったよね?急に料理作ってほしくなった時とか、お願いしやすいと思うからお願いしてもいい?」
優斗としては、理由が個人的過ぎる所が気になったが、仕事の連絡にも使える事を考えると、自分のメリットも感じたので承諾した。
こうして連絡先を交換して、数週間音沙汰が無かったのだが、日曜日に突然連絡が来て驚いた。そして、肝心の内容は当初の予定通りだった。
「佐藤君!明日の月曜日、出来ればお弁当を作って欲しいです!いいかな?」
優斗の会社は社員食堂があり、ほとんどの社員はそこで昼食を摂る。食べるものは基本的に自由なため、食堂のメニューを頼んでもいいし、弁当を持参してもよい。優斗は基本的に弁当持参派で、悠里もほぼ毎日弁当を持参していた。しかし悠里は、月曜日は決まって手作りの弁当ではなくスーパーやコンビニで買ったものを持ってきていた。弁当依頼の理由が概ね予想できた優斗は、自分に対する扱いにツッコミたくなるものの、作る量が変わるだけであまり変わらないと思いアンケートを取ることにした。
「メニューのリクエストはありますか?できれば、分かりやすいメニューでお願いします。」
「それじゃあ、オムライスでもいいかしら?大好きな食べ物の一つなの!」
お弁当に入るメニューは、冷めてもおいしくて、午後への元気の源となれるものが良い。その条件を満たしたオムライスとは…。そんなことを考えていると、優斗の頭に一つの考えが浮かんだ。
「よし、これだ!」
そうして、月曜日の朝がやってきた。いつもより早起きした優斗は、さっそく弁当作りに取り掛かる。まずは、オムライスの中で最も重要なもののひとつ、中身のチキンライスを作る。具材を大きめにカットすることで、具の存在感を出して味に負けないようにするのが優斗のこだわりである。チキンライスが完成すると、今回の工夫するポイントとして、丸く握ったチキンライスを薄焼き卵でくるむ。そう、今回は弁当Ver.としてオムライスのおにぎりにする。コンビニの商品から着想を得たのだが、優斗のオリジナルとして卵でくるむことにした。余った野菜と肉を炒めた野菜炒めをつけて、弁当の完成である。
2人分の弁当を持って出勤すると、すでに出勤していた葛城が、待ってましたとばかりに話しかけてきた。
「おはよう佐藤。そういえば、最近噂で聞いたんだが、お前と本間さんってできてんのか?」
「え?いきなり何ですか?」
「前に、柚木に聞いたんだよ。この前の新歓飲み会の帰りに、お前が本間さん帰したって聞いて、どうしたのか気になってな。」
今更?という気もしたが、弁当の影響でその記憶を遠くに感じなかった優斗は、真実を答えた。
「帰したというか、その日は仕方なく連れ帰ったんですけど、そこからは何もないですよ。」
「あ?ちょっと待て!連れ帰った!?それマジか?」
「葛城さん、声大きいですよ。その日は…その…悠里さんの家が分からなかったんで、仕方なく連れ帰ったんですよ。」
「お前も隅に置けないな。それで?何処までいったんだよ。」
優斗が訂正しようとすると、丁度出勤してきた悠里が葛城を呼びつけた。優斗は、悠里が話の内容と、葛城の声音の変化に危機感を感じたらしく、葛城に雑用を押し付けて話題の強制終了を図ったように思えた。優斗は、悠里の態度に疑問を覚えながらも、仕事に入ろうとしてパソコンに向かった。すると、スマホのメッセージ通知を知らせるバイブが鳴った。目をやると悠里からになっていて、昼休憩の指定場所に弁当を持ってくるようにとのことだった。
昼休憩を知らせるチャイムが鳴り、優斗は2人分の弁当が入った、いつもより大きめの巾着袋を持って屋上のベンチに向かった。隣に座る葛城に突っ込まれないように、すさまじいスピードで逃げる様に部屋を出たため、悠里を置き去りにしてきてしまった。少しすると、悠里が満面の笑みでやってきて隣に座った。
「どれどれ?どんなお弁当がでてくるのかな?」
この時間の屋上は、社員がほとんど食堂に行くため意外と人が来ない。悠里が朝のようなことを懸念したのか、人気の少ない場所を選んだようだ。優斗は、その気遣いに感心しながら、おにぎりの包2つと野菜炒めのタッパーを悠里に渡した。
「おっ?オムライスだよね?」
「はい。少しばかり工夫してみました。開けてみてください。」
悠里が包みを開けると、黄色い卵が顔を出す。日光を浴びてキラキラと光っている卵に「なるほどねぇ」という感嘆が漏れる。
「じゃあ早速、いただきます!」
悠里が一口頬張ると、ケチャップの酸味に負けない程存在感のある焼き豚や人参が強く主張してくる。その存在感の陰でコーンやグリーンピースのような小粒達も確認できる。
「んん!おいしいね。素材の味がちゃんと分っていいね!やっぱり佐藤君の料理はおいしいよ!」
はじけんばかりの満面の笑みで感想を言う悠里に「ありがとうございます。」と言いながら、優斗も一口頬張って満足感を得る。それと同時に、なぜ悠里の笑顔に満足感を得るのか少し疑問に思う優斗であった。
2人が丁度食べ終わるころ、悠里の仕事用の携帯が鳴った。電話に出た悠里は慌てた様子でこう言った
「ご馳走様。またお願いね。ごめん、もう少しゆっくりしたいけど呼び出されちゃった。先行くね。」
そう早口に告げて、行ってしまった。その行く先に動く人影があったが…。
「やべっ!おい、本間さんが来るぞ。早く下がれ。」
「え。賢哉さんがもっと近づくぞって言ったじゃないですかぁ。ほら、結美ちゃん戻ろう。」
そんな3人の前を、全く気付いていない悠里が通り過ぎる。
「気づいてない、よな?危ねぇ。」
「涼さん。あの2人って、出来てるんですかね?」
「うーん。まだ確証は無いけどねぇ…。もうちょっと探ってみよう。」
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