第10話 お返し
優斗への想いに気付いて、それを伝えた悠里。想いを伝えられて自分の気持ちに気付いた優斗。
受け入れるようなそぶりを見せた彼の返事とは?
そんな最終第10話です。お楽しみください。
その日は、昨日決まった仕事で各々片付けるべき事を優先していた。結局、優斗は30分ほど遅刻したものの、悠里の小細工で班のメンバーに弄られる程度で済んだ。定時を迎えると、金曜日という事もあり大体の社員が帰宅する。しかし、前日に続いて残業中の優斗は、パソコンに向かっていた。班のオフィスには、悠里と柚木が残っていた。悠里の事を無意識に気にしまくっている優斗に気付いた柚木は、空気を読んで仕事を切り上げ帰る事にした。帰り際、優斗の机に鞄の中にあったチョコレートを置いて、右手の親指を立ててウインクをする。少し驚いている優斗を尻目にオフィスを出てメッセージを送る。
「バレバレだぞ。ガンバ!」
優斗がスマホのメッセージ通知音に気付いて目をやると、柚木からだった。さっきのチョコレートウインクは何だったのかと思いながら開く。すると、とんでもないカミングアウトが送られていた。メッセージの内容に驚いていると、名前を呼ばれた。
「優君。さっきの書類だけど、葛城君に確認はした?」
「あっはい。見てもらいました。」
「ん。ならOK。だいぶモノになってきたみたいね。ところで…」
2人きりになっていきなり優君!?とか意味深な所できらないで!とか突っ込みたかったが、いつの間にか後ろに来た悠里にバックハグをされて全てが吹っ飛んだ。
「昨日の返事、ちゃんと聞いてないんだけど。」
色気の乗った声が耳元で囁く。優斗は慌ててバックハグをすり抜けると、数歩距離を取って答えた。
「そっそれじゃあ、僕の家で話しましょう。ここじゃなんですから…。それと、仕事にキリをつけてからでいいですか?」
悠里は、笑顔で頷くと帰り支度を始める。優斗は、席に戻って処理途中の書類を片付けた。30分後、2人で会社を出て駅へ向かう。途中のコンビニで、ビールとつまみを買う悠里には覚悟を決めた優斗だった。帰宅すると、手伝うと言って聞かない悠里と夕食の準備に入る。今日のメニューは、リクエストのパスタ。麺を茹でるのを悠里に任せて、優斗はソース作りをする。冷蔵庫を覗くと、キノコとほうれん草が目についた。閃いた優斗は、これらを手に取り準備を始めた。まずは、キノコやほうれん草などの具材を大きめに切り、バターを敷いたフライパンでさっと炒めて、醤油で味付けする。火があらかた通ったところで、下茹でした麺を加えて絡めると完成だ。途中、麺の状態を確認するために悠里を見ると、塩を入れて茹でていた。そうすることで、ソースとなじみやすくなるらしい。そうして完成したものを2人で食べる時、優斗は悠里の非常に満足そうなおいしいの言葉と笑顔で、悠里のことが好きであることを改めて実感する。
食べる途中からビールを開けていた悠里は、食べ終わる頃にはいい感じに酔いが回っていた。
「優くーん!ごちそうさまでした!ところで、例の返事は?」
直球に尋ねられて少しだけ身構えるも、固めた決意を伝えようと悠里と向き合う。
「悠里さん。僕、気付いたんです。自分の気持ちに。悠里さんは、いつも僕の料理を飛び切りの笑顔で、心から美味しいって食べてくれますよね。前から疑問だったんです。なぜ、悠里さんの笑顔でこんなにほっとするのか。それは、最初から惚れてたんです。悠里さんの知らない時から。」
そこから優斗は、悠里を初めて電車で見た時から気になっていたことを伝えた。優斗はあの時から悠里に好意を抱いていて、通勤の電車で見かけると安心した。その気持ちは、関係が変わって距離が近くなった今でも決して変わっていない。それを、自分の言葉でありのままぶつけた。優斗が話している間、真剣に耳を傾けていた悠里は、話が終わるとクスっと笑った。
「なんだ。私の猛烈な片想いじゃなくて、優君も私にぞっこんの両想いだったのね。」
安心したように立ち上がって、食器を片付けに行った悠里だったが、キッチンに食器を置いたところで後ろからお腹に手が回されるのを感じた。振り向くと、優斗が真っ赤な顔で抱き着いている。そんな部下を可愛く思った悠里が抱き返そうとすると、いきなり唇を塞がれた。どうやら優斗は、思いの丈を伝えきってブレーキが壊れたようだ。予期していない展開に慌てる悠里だったが、優斗にそのままソファに連れていかれて押し倒された。悠里は抵抗をあきらめて、身を任せた。そのまま2人は互いを求めあい、夜は更けていった。
翌朝、日光と鳥の鳴き声で目が覚めた優斗は、ベッドの上で後ろから抱き着かれていることに気付いた。その相手からは、静かな寝息が聞こえてきた。起こさないように布団を出て確認すると、ワイシャツ1枚で可愛い寝顔の上司兼彼女がいた。その顔にキスをして、昨夜いつの間にか移動していた寝室を出る。深呼吸を1つして自分を落ち着かせると、早速キッチンに立つ。彼女が起きてくるには、もう少し時間がかかるだろう。それまでに、彼女の大好物にして自分たちのきっかけでもある、味噌汁を作って待とうと準備に入る。出来上がったころに寝室のドアが開いて、隙だらけの彼女が起きてきた。
「おはよう優君。大好物じゃん。おいしそうだね。」
「おはよう悠里さん。どうぞ召し上がれ。」
ここまでお読みいただいた皆様、ありがとうございました。
本作は、一旦完結としたいと思います。また何かアクション等あれば、Twitter等でお知らせしますので、よろしくお願いします。ちなみにアカウントは作者名と同名ですので、フォロー等していただけると幸いです。
一応告知として、本作とは雰囲気が一変しますが、次回作の構想もありますので、どこかでお目にかかった際は、よろしくお願いいたします。
お付き合いいただき、ありがとうございました。




