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戦う美少女は小鬼の群れと戦う

戦闘シーン書くの難しい。

伝われば良いのですが。


では、本編どぞ。


山間から僅かに顔を覗かせていた太陽はいつの間にか完全にその姿を露にしていた。伴って橙色味がかっていた空もどこへやら。雲1つない晴天は遠く果てなく青く広がり、長い夜が今朝も変わらず明けたことを告げていた。


ただ、爽やかな朝の訪れが憂いやら億劫やら後悔やらを一緒くたにまとめて晴れやかにしてくれるかといえば別の話だろう。少なくとも血と臓物の臭いを孕んだ重い空気が漂うこのウルド平野では尚の事。



 ぐちゃり ぐちゅり



だのに、鼻を突く悪臭に眉を潜める者はここに誰一人としていない。在るのは朝露と仲間だった(もの)で濡れた地面を愉快に不快感な水音を立てながらはしゃぐ小柄な醜悪……一匹、また一匹と増える、増える。


『ギギャギャギャギャッ!!』


広がる嗤いは不格好ながらも組まれた円陣の中央へ。あぁ、囲われた哀れな獲物に向けられた無慈悲な嘲笑はいくら助けを乞おうともお前が極上の嬌声を上げても襲い続けると言わんばかりに…



「すぅ……あっははははははははっ!!」

『ギ…』



ただ、彼らは知らない。

獲物もまた眉を潜めてなどいないことを。


そして、なにより。

笑みは美少女にこそ相応しいことを。


 ◆


「ははは……あー、笑った笑った。」


何かが楽しかった訳じゃないけどね。

なんなら臭いは酷いし、イヤらしい視線が鬱陶しいしで嫌になっちゃうくらい。


ただ、


「慣れればどうってことない」


所詮は臭いと視線だ。こっちはそれなりに奴隷経験豊富。トイレと寝所が一緒の部屋で寝てたし、商品として好奇な目で見られたことなんて数えきれないくらいある。


だから急に笑ってみたのは頭が悪く(おかしく)なった訳でももちろん思い出し笑いとかじゃなくて、嗤われたお返し以外に大した理由もない


…んだけど、しまった、と周りの反応に頭を抱えそうになる。


「言葉は通じなくても笑ってるのは分かるんだ。」


見渡せばさっきまで『獲物は俺のもんだぜぇ』って感じでお祭り騒ぎだったゴブリン達が揃いも揃って顔をキョトンとさせすっかり黙ってしまった。たぶん"こいつなんで笑っているんだ?って言いたいんじゃないかな…うん、良くない。



私がここに来た目的。


それは村を襲うゴブリンを"退治"したい訳でも、ましてや遠くに見えるあの村を守りたい訳でもない。仮に村を守るなら村人が逃げるための時間稼ぎ的な意味では今の状況は悪くないかもだけど、正直なところ名前も知らない村なんかはどうでもいいんだ。



私の目的はあくまで村を襲うゴブリンと"戦う"ことだ。

戦意喪失させちゃダメなのだ。だからそうやってぼーっと突っ立っていられると……あぁ、もうどうしよう。仲間を5、6匹殺られるんだから敵討ちだーって感じで来てくれていいんだよ?薄情者っ!なんかもっとこう…ガッと来てよ!


そんな殺意(やるき)のないつぶらな瞳で見つめてないで…


「ぶぷっ」

『ギィ!?』


予想外の攻撃につい吹き出しちゃったじゃない。

ごめん、ごめんね。でも仕方ないじゃない。


性根まで腐ってそうな変な顔の癖になんでそんなに目がくりっくりなの?おっきな鼻から鼻水垂れてるし子供みたい。なのになんでいっちょまえに腰布なんか巻いてるの?鼻水と裸見られるのは平気なのに下は恥ずかしいの?


しかもプルプル震えて、ぷはは、鼻水が一回転して頭に付いた。青筋まで浮かべてぷふ……む?おやや?



   へぇ~…笑われてるのも分かるんだ。ふぅん。



「ぷっ……あはははははっ!変な顔。そっちもそっちもそっちもみーんな、頭悪そうなブッ細工。面白~い。」


お腹を抱えて大袈裟に笑い、堪らずに零れる涙を指で拭う……フリをしつつ、ゴブリン達の顔をチロリと伺う。


私の奇行に意味が分からない、と言いたそうな顔ばっかり。でも、ピキピキと額に血管を浮かべている顔もある。ゴブリンにも個体差があるんだ、なんて考えつつ、見て見ぬふりをしながら笑い続ける。


(馬鹿にされてるのが分かるなんて意外と頭悪くないかも。)


点でぽつりと生まれた怒りは次第に大きく、伝播していく。同時に燻りかけていた欲望が再燃焼し、歪んだ顔付きが徐々に増えていく。このまま放っておけば、そのうち私の望む展開になるはず。


(でも、そのうち?私はもう準備万端。すぐに始めるよ。)


大きく息を吸って~、思いっきり力を溜めて~、吐き出…


「すっと!!」

『ッ!?』


目の前にいたゴブリンの肩を目掛けて思いっきり棍を振り下ろす。骨を砕く確かな手応えと一緒にゴキリと鈍い音が響く。笑い苦しんでいた獲物(わたし)からの突然の衝撃に意識を失ったゴブリンを地に叩きつけてから、手元に棍を戻す。


 ビュンッ ビュンッ


回転させながら棍の状態を確認する。コツは遠心力に任せるようにゆっくり無駄な力は込めない。ぐるんぐるんと"この子"の思うがままに。


変に歪んでたりすると上手く回転しない、けど


 曲がりなし。凹みなし。重心よし。


うん。すっごく丈夫。これならもっと力を込めても問題なさそう。

コウメイ様に丈夫に作ってねってお願いしたとはいえ、万が一途中で壊れたりしたら困るから…あ、もちろんコウメイ様を疑う訳じゃないよ!念のため!


「すぅ……はぁ。」


息を整え、改めて前を見据えれば血走った目が私を見ていた。いくつもいくつも。ようやく火が付いたらしい。


「まだ私がか弱い獲物に見える?」


私の質問に答えはない。そもそも言葉が分かっていないんだろう。投げ掛けた相手は荒い息を繰り返すだけ。それでも言いたいことは分かるから不思議。



不意打ちみたいに始めたことを少しだけごめん、と思わないこともない。だから、次の始まりの合図は……そちらからどうぞ?



『キィァアッ!』

「そうこなくっちゃ!!」



ビリビリと震える空気を割るように思いっきり棍を振り上げた。



 ◆



(調子が、すっごくいい)


叫び声を聞く前、ゴブリンが僅かに動かした膝をきっかけに自然と腕が動いたことに自分の事ながらビックリする。


グンっと下から上へ空気を抉りながらしなる棍は一歩を踏み出すはずだったゴブリンの妙に出っ張った腹にめり込む。


「ん!」


瞬間手元に抵抗感が生まれる、けど負けじと力を押し込んで胸から顔までまとめて撫で上げる。


『ォッ!?』


顎から顔に侵入した棍がゴブリンの大きな鼻を打ち砕く。通り道にあった口は元の影も形もなくなり、意味のない声を漏らす。断末魔、というにはか細い。けど、血と肉を混ぜながら骨が弾ける音は辺りに大きく鳴り響いた。まるで手を叩いたかのように。


(とっ、余計なこと考える場合じゃない。)


不快な快音に乗って血飛沫と一緒に華麗に宙を舞うゴブリンが周りの視線を空へと連れていくのが分かった――集中。


周りの視線が僅かに上がったことで生まれた隙間へと入り込むように、後れて降り始めた真っ赤な雨を浴びながら大きく一歩踏み込む。


「いくよ」


思いっきり振り上げた棍を掴む腕に力を入れる。


(振り下ろしは正解。でも残念だけどそっちじゃない)


そんな私に咄嗟に気がついた数匹のゴブリンが振り上げられた棍が次に放つであろう強烈な振り下ろしを警戒して身構える…のを尻目に、上へと昇りきった棍を前ではなく、あえて止めずにそのまま後ろの地面目掛けて落とすのに合わせて、肩を中心にぐるりと腕を回す。


、と同時に地面を蹴り、左足を軸に身体をその場で半回転。

視線を流しながら、背後だった場所目指して落下を始めた棍に自分の力を乗せ、


「るっ!!」

『ギギャアッ!?』


攻撃されると思ってなかったのか驚愕に染まったゴブリンの顔を真上から潰す…切る前に右手首を捻りつつ、左手は力を込めて棍を固定。


結果として少し力の抜けた棍はゴブリンの頭を潰すに至らず、自重と落下の勢いを宿らせたまま、握る左手を支点にゴブリンの頭を上半分抉りながらヌルリと滑落するように右下方向へと進路を変えていく。


そして、いよいよ地面にぶつかるかという瞬間、先端をくるりと翻す。


地面を掠り、砂を巻き上げながら軌道を変えた棍に身体の捻りを加えて今日1番思いっきり力を込める。


「やっぱりそこ危ないっ!!」


未だに振り下ろしを警戒した構えで突っ立っていたゴブリンに横凪ぎの棍をお見舞いする。


「んっ!」


腕を砕いた反動に棍が弾かれる、けどあえて逆らわず右手で円を描くように操作して元の進路へ戻し、更に身体を回転させて、振り抜く。


顔を掠め鼻頭を飛ばし、呆けていた一匹の頭を横から割る。奥から突っ込んで来たゴブリンには腕を伸ばして腹を突き、めり込んだまま乗せて振り回す。


そして、更に回転。回転回転。

小柄な緑色の体躯が飛び、崩れ、弾ける。


確かに棍には剣や槍のような流麗さこそ無いかもしれない。


でも、当たりさえすれば大なり小なり敵に損傷を与えることができる素晴らしい武器だ。こんな風にめちゃくちゃに使っても戦闘が成り立つ。


足を組み替えつつ、腕を振り続ける。


(とはいえっ)


正直なところ、もう狙いも何もあったもんじゃない。

今の私は目まぐるしく切り替わる視界の中で力のまま流れるままに思いきっり棍を振り回しているだけだったりする。


手元に伝わってくる感覚からゴブリン達をばったばったと薙ぎ倒しているのは分かる。まるで台風が木の葉を舞い飛ばすように。


でも、ゴブリンは決して木の葉じゃない。


いくら頭が悪かろうと葉っぱより酷いってことはない、はずだ。このままいつまでも無闇に突っ込んで来るだけってことはないだろう……それに私にも限界は来る。


「に"っ!?」


そんなことを考えていたせいか、はたまた偶然か。

急停止した棍にぐっと身体が引っ張られる。転ばなかった私、偉い。


酷く姿勢を崩さないよう力みつつ、何事かと見れば「なるほど」棍の先端に数匹のゴブリンが覆い被さるように重なっていた。


「動かない」


微動だに、とまでは言わないが割りとしっかりと固定されてしまった武器を前にポロリと溢れた言葉をきっかけに、まるで示し合わせたかのように小柄な体躯が飛び上がった。数は…数えてる暇はない。


(目の前…左右も…ならきっと後ろも)


もう一度、棍の引き抜きに挑戦してみるけどやっぱり動かない。

だったら後ろにゴブリンがいないことに賭けて退避……は流石に部が悪過ぎて選べない。


つまり――、前後左右に逃げ道はない。


「……、そのまま持ってて!」


だったら逃げ道は一つしかない。

どうせ動かないなら絶対に動かさないでよ!


 ◆


遂に無駄な抵抗を止めた生意気な獲物を前に遠巻きに見ていたゴブリンでさえも我先にと仲間を押し退け、争うように獲物の元へと殺到する。先に襲いかかったゴブリンがいようとお構い無し。次から次へと欲情に染まった顔のゴブリンが飛び込み重なって小さな山を作っていく。



のを、頭の"上"で見つめながら一息つく。


前後左右がダメなら上しかないと、引き抜けない棍を逆に押し込んで地面に突き立て、そのしなりを利用して上空に飛んでみたが思いの外上手く行った。私、まんまと空に逃げてみせたのだ。


ふふふ、自然と逆立ちの姿勢になっちゃったけどここならゴブリン達の手も届かないし、最高。このまましばらく休憩を、


「なんて無理っ!!」


なら、良かったんだけといくらなんでもこのままじっとしてるのは流石に無理だ。おぉう、揺れる。棍の上でプルプル震え始めた身体に合わせて棍が更に揺れる揺れる揺れる。律儀にゴブリン達が棍を押さえてくれてなかったら、とっくに下に落っこちてる。


逆さまの世界を高くなった視界で見渡すと、当然なんだけど、私に気がついたゴブリン達が棍を中心に出来上がった仲間の山を登りつつ、集まってくる。少しくらいは直下で押し潰されている仲間を助けてあげたら、と思うが今更だ。私もそれどころでもない。


どのゴブリンからもさっさと疲れて、早く落ちてこいと言わんばかりの熱視線を浴びる。待ち伏せするなんて、やっぱり意外と頭良いのかもしれない。


棍をなかなか登れないのは幸い、と言ってもゴブリン達の期待はいずれ叶うだろう。だったら、下りるしかない。自分で。


「折れないでよ!」


派手に、ね。


棍を掴む腕に力を込めて、あえて身体を大きく揺する。もちろん棍は激しくしなるが、臆せず更にそこに体重も乗せ本当に折れるんじゃないかと心配になる程に棍を湾曲させる。


「あぶっない!」


当然地面に近くなった私。待ってましたとばかりに手を伸ばしてくるゴブリン達の指先から逃れるように腹筋から足を折り曲げ、1番上まで戻ったらもう一度「そりゃっ」反動で棍を……引き抜く。



ぐるッと視界が回った直後に、驚く程大きな音がした。



音の発生源を見ると、棍の先で窪んだ地面に赤い水溜まりが出来ている。きっと頭から股下まで一緒くたにぺしゃんこに潰れたゴブリンだったものだろう。


『……ッ!?』


その光景に唖然としていたゴブリン達の群れの横っ腹に渾身の一撃を叩き込む。呆気を取られていたゴブリンが避けられる訳もない。


「さ、続きしよっか」


壮絶な最期を迎えた仲間。

それを成したのはただの棒を振り回しているだけの女。


仕留められないどころか飛び込む者は逆に吹き飛んでいく。

疲れているはず…でも、未だに笑い続ける女。


『ギ、ギ...ギギャア!』


ゴブリン達は、もうやぶれかぶれだ。女一人と嘗めていたらまんまと翻弄されながら頭を次々と打ち砕かれていく。格好の獲物に嗤われ、挑発され、もう冷静でいられない…でしょ?


ゴブリン達の手には不恰好ながらも研がれたナイフや武骨な棍棒が握られていた。中には遠距離攻撃を画策してか石を握る者もいる。


さっきまで武器が見当たらなかったってことは私を殺さず、なぶり、楽しむために使わずにいた切り札ってところか。もう温存する必要がなくなった武器が一斉に襲いかかってくる。


「今更だよ」


もし最初から、もしくはもう少し早ければ結果は違ったかもしれない。


曲芸見たさに一度密集した上に武器を手に突貫。その行動にはさっきまで拙いながらも存在していた連携は皆無だった。


試しに棍を振れば、下卑な笑みを浮かべながら当たらない場所で立ち止まったゴブリン……の背中にすぐ後ろまで来ていた別のゴブリンが衝突する。背中に刺さったナイフ。投げられる石もまたその後頭部に当たるばかりだ。


『『ギャッ!?』』


そんなゴブリンに遅れを取るはずもない。


真上から棍を落とし頭を砕き、腕は武器ごと弾き飛ばし、転んだゴブリンの頭は左足で踏み抜く。


一方的な展開に、ゴブリンが二の足を踏めばここぞとばかりに…


「うわっと!?」


踏み込んだ場所に撒かれていた、新鮮な血糊に左足を取られ体勢を崩してしまう。


なんとか姿勢を保とうとした私を目の色を変えたゴブリン達は見逃さない。逃げ出そうとしていたゴブリンも含めて一斉に武器を手に群がってくる。


…どうやらゴブリンの頭の悪さは学習能力の低さを表しているらしい。


「さっきもそれで酷い目にあったばかりじゃない。【装鋼脚】…【楔】」


『アッ!?』『ギギャア!?』

『ブッガァッ!?』


行ったり来たり立ち止まったり突っ込んだり。混乱の極致となった包囲網を渾身の力で打ち砕き、続けて一閃。身体を軸に崩れた体勢はそのままに2度、3度と旋回しながら棍の軌道上にいたゴブリン達を薙ぎ払っていく。


遠心力に任せて、速度を上げる。速く速く。

刃溢れも損傷も関係ない。ただ思うがままに振るい続ける。


そして、


「んっ」


最後に残ったゴブリンの顎を下から打ち上げた。


「終了っ!おつかれっ!」


地面から左脚を抜きつつ、大きく息を吐いた。

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