表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/33

平野に集う最弱

またしてもブックマークを頂きありがとうございます。

相も変わらずマイペースな更新ですが、引き続き読んで頂けると嬉しいです。


では、本編どぞ

 【 ▶ 】


"最も"とはある集団があって初めて定義されるものだ。


最も軽い鳥類であればハチドリだろうし、最も辛い野菜であれば唐辛子だろうし、最も速い人類であればウサイン・ボルト…なのか?ランキングなんて時代の激流に流されるままにコロコロ変わる上に俺はスポーツに詳しくないのです。オリンピックは翌日のニュースで満足派…どうでもいいか。


兎にも角にも。


誰が優れているか。何が劣っているか。そして弱いのか強いのかは比較相手がいて初めて存在しうることに疑問の余地はない。


では、だ。


"最も弱い"魔物として有名なゴブリンはどの集団において何を比較した上で最弱などという不名誉な冠を得たのか。



『ゴブリンって頭がワっるいのよ』



小さな昭明がいくつか灯るやや暗い部屋で心地良い座り具合と何とも眠たくなる角度を両立した椅子、映画館でちょっと課金するだけで座ることが許される椅子に腰を預けながら、溌剌さが特徴的な受付嬢からいつぞや聞いた魔物の基礎知識の中にあった台詞を思い出していた。


……まだ時間はあるな。


彼女曰く、この世界には大きく分けて3つの魔物種が在るという。

人型を模したとされる『擬人種』、動物や植物等が転じたとされる『変態種』、環境そのものが時間経過で変化した『環境種』。更に曰く、擬人種は知能が高く、変態種は肉体が強靭で、環境種は長生き故の蓄積が特徴らしい。


なるほど。


俺「じゃあ、人間っぽいエロい形の野菜は…変態種?恥ずかしげもなく威風堂々と裸体をドヤる彫刻像は…環境種?めちゃくちゃ長生きした猫娘は…擬人種?」

受付嬢「あははは、細かい男がモっテないって知ってる?」


やかましい。知っとるわ。

どうもその辺の境界は曖昧らしい。適当かよ。


……あ、そろそろ


僅かな証明が消え、薄暗かった部屋は完全な闇に満たされる。

代わりに明かりが灯るのは目の前に大きく張られたスクリーンだ。


そう、俺がいるのは映画館…に限りなく近い造りのシアタールームだ。

もちろんそんなものを自宅に設営する金銭的余裕も空間的余裕もないのでここが【夢の工房】内の一画なのは言うまでもないだろう。


正直、今から映像を見るのにこんな大がかりな設備は必要ないんだけど、夢の中くらい贅沢してもいいでしょってね。映画が始まる前のこの時間が結構好きだったりするし再現度は高くいきたい。映画を盗むことに生涯を掛けたカメラヘッド泥棒のアクロバットは何度見ても飽きないし…え?俺だけ?


「それでも再生ボタンを押してから始まるまでに5分は長すぎたかもしれない」


そんな反省を余所に、いよいよスクリーンにカウントダウンが投影される。


なら、雑談もここまでだ。


では、最後に。


ゴブリンは知能が高いことが特徴の『擬人種』に属する。

その上で最弱ってことは、つまりって話だよな。



3  


 2


  1



「タイトルは…そうだな【集う醜悪、舞う秀麗】、嗤…っと、スタート、だ」








「しっ」


ナナイナの赤い唇から吐き出された微かな息とは裏腹にまるで台風の接近を錯覚するような轟音を伴った暴風が吹き抜ける。


台風は時に石や木片を巻き上げ、さながら散弾銃のような被害を与えるという。であるならば明らかな意思を持ちながら無骨な棍を巻き込む突風に狙われたらどうなるか。


『ギャアッ』


叢から飛び上がったゴブリンの頭が振り抜かれた棍の軌道上で弾け飛ぶ。彼(?)が受けた威力はそれでも死なず、頭に受けた勢いを乗せたまま彼方に吹き飛んでいく。運悪く頭無しゴブリンに途中で巻き込まれた別ゴブリンに合掌しつつ、視線は特大スクリーンからは離さない。


「うん、いいね。流石コウメイ様。」

「恐縮です。」


スクリーンの向こう側、しかも撮影済みなのは分かっていてもついナナイナの独り言に答えてしまった。無駄に音響とかも拘ったのが仇となったか、恥ずかしい。地面にめり込んだ【接続棍】が鳴らすドスッと重い音まで耳元で聞こえる。



【接続棍】



ゴブリンの横っ面ごと頭を打ち砕いたそれの長さは約250cm。

もちろん、持ち運べるように3分割できるだけのただの棒切れじゃない。内部に鉄心が仕込んであり、ちょっとやそっとじゃ曲がったり凹んだりしないように丈夫に想像した(つくった)長物武器だ。


両端に行くほどに重量を増す構造になっており、振り回すことで発生する遠心力を利用し、生み出す威力はご覧の通りだ。


それもそのはず。なんとその重量は20kgオーバー!

不意に当たっただけで悶絶する(体験済み)ヤベェ武器(ヤツ)



「っていう認識は一応間違ってなかったけど、あんなに軽々しくブン回せるのは想定外なんだよ。」



【接続棍】はナナイナにウルド平原での戦いに向けて欲しい武器はなんだい?と訊ねたところ『角材みたいな武器』との注文を受けて生まれた。


何故、と理由を聞いたところ「剣とか槍って刃を当てないとダメでしょ?攻撃に有効な箇所が小さい武器は苦手かも。」と言っていたのでてっきり"力任せに適当に振り回す"だけかと思っていた。


だからこそ小柄なゴブリンの更に小さな頭を狙った一撃を映した今のシーンに驚きを隠せない。


確かに半炭鉱婦(ハーフドワーフ)であるナナイナは我ら人類に比べるとかなり力持ちだ。具体的には20kgを超える棍を楽々と持ち上げ、振り回すくらいに……冷静に考えると恐ろしいな。軽はずみなことを言わないように気を付けねば。


正直、あの華奢な身体のどこにそんな筋力があるのかと疑問に思わずにはいられない。確かに【夢の工房】でナナイナの体格を整えたのは俺自身だが、あくまでもナナイナの思考を元にした。このくらい?こんなもん?こっちの方がいい?やり過ぎ?てな具合に。


つまり、今の彼女の身体は彼女にとって"あり得る姿"ということだ。

今でこそ俺の能力のおかげで万全の状態な訳だが、良く食べて良く動いて良く寝ていれば、自ずとナナイナはあぁなれるってことだ。


ふむ。筋肉の密度、組成が違うのだろうか……正直、魔力という不思議(ファンタジー)力がある世界では考えるだけ無駄なのかもしれないけど。

とはいえ、その筋力は「ファンタジーだから仕方ない、かな?」で片付けられる範囲。20kgの棒を振り回すくらいならボディビルダーでもできるだろう。



俺が驚いているのは、スクリーンの向こう側でナナイナが立っているのは俺の想像の二段階くらい上のステージってことだ。



重たい棍を持ち上げ乱暴に振り回すことと、小さな的を正確に打ち抜くことの間には雲泥の差があると言わざるを得ない。ナナイナは確実にあのくっそ重い棍を、いや、棍を扱う義腕を使いこなしてる。たった一週間で。



「自分で腕を千切って試したから分かるけど、義腕(あれ)使うのくっそ難しいんだけどな…これもファンタジーあればこそ、か。」


微笑むナナイナからも余裕を感じ…「(良かった、上手にできた)」


「……馬鹿か。あの義腕を使うのがどんだけ難しいかなんて作った俺が一番知ってるだろうが……一体、どんだけ練習したんだか……最高かよ。」


そうだとも。いくら少なからずファンタジーがあったとしてもそこにナナイナの努力が無いなんてあり得ない。彼女の費やした時間をファンタジーの一言で片付けていいはずがない。


後でナナイナを誉め千切ることを誓いつつ、今は目の前の映像に集中することが今の俺にできることだ。


「来た、か。」

 

俺が心持ち新たに姿勢を正したところで場面に変化が訪れる。叢から更にゴブリンが姿を表した。その数は、ひー、ふー……4匹、接近する。


奴らにナナイナが握る棍が見えていないのか、とも思うがそこは流石知能最弱ってとこか。ただ、今回はその足りないおつむが厄介そうだ。遠くの方に未だ複数の影が見える。時間が経つにつれ次から次へと増援がやってくるだろう。


「右2左2っ!」


だが、ナナイナに焦る様子はない。

目の前のゴブリン達に向けた意識がぶれることもない。


前方左右に2匹ずつ展開する形に対して、振り切った棍を手首を捻り返す動作で地面すれすれ、すなわち4匹のゴブリン達の足を同時に振り払う一撃。


再び荒々しい風切り音が鳴り上流にあたる左前方のゴブリン2匹が強烈な足払いに脛を砕かれながら空中側転を披露し、地面にぐしゃりと落ちる。


『ギャッ!!』


一方で、危険を察した右前方の2匹は咄嗟に上に飛ぶことで棍の一撃を躱しよる。やるな。


『ッ!?』


そして、攻撃をまんまと避けたことに口角を上げた顔が空中で弾けた理由を本人、いや本ゴブリンが理解することは永遠にない。


「ひゅう♪」


思わず口笛が漏れる。

答えはシンプルだ。


足払いに放った一撃が次の二撃目に流れるように繋がる。振り抜いた棍がナナイナ身体をグルンと一周し、遠心力を乗せた勢いの棍が足元に注意が向いていた2匹のゴブリンの頭目掛けて再来したのだ。


『ぅギッ!?』


そして、低身の姿勢でこっそり隠れて近づいていた別のゴブリンは流れ弾ならぬ流れ棍に巻き込まれ、曲がってはいけない方向に曲がった腕を押さえながら悲痛に叫ぶ。


一息の間に、迫っていた驚異を無力化するナナイナについ息を飲む。


確かにゴブリンは驚異が少ない魔物と言える。身体は小さいし、頭も悪い。流石最弱。だが、小学生くらいの小さな身体に大の大人を相手取るだけの力がある上、逆に言い換えれば的が小さく、頭が悪い故に動きに躊躇いがないということだ。しかも今回は数も多い。


だからこそ、だからこそだよ!


寸分の狂いも無く的確に相手を打ち抜くナナイナの技量と、物量にも怖じけない度胸に興奮するしかない。



「……楽しい」



今まで観たどんな映画やアニメ、ドラマ、バラエティなんかと違う。

比較するのもくだらない程の興奮がその中にあった。


俺が買った奴隷、俺の【戦う美少女】ことナナイナが武器を手に立ち回る姿は現実世界の延々と続くつまらない日常の全てを忘れさてくれる。


こんな刺激を俺は知らない。

朝起きて出社して昨日と変わらない仕事をこなして帰宅する毎日とは違う。



何にも変え難い経験に満たされた目頭から自然とホロリ…



「まだまだここからだよ。」

「うっ!?」



まるで見透かされたような一言に思わず息が詰まる。

慌てて、傍らに置いてあったボックスティッシュから一枚引き抜き、ずびりと鼻をかむ。



ナナイナの言う通りだ。 

潤んだ瞳で何も観てませんでしたじゃ笑えない。



戦いはまだ始まったばかりじゃないか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ