自分のことは棚に上げるのがコツ
前回の投稿で、更にブックマークありがとうございます。
数多の作品の中から本作を読んで頂いて感謝です。
拙い内容かつ不定期更新ですが、今後ともよろしくお願いします。
では、本編どぞ。
「ほら、取れた」
「っぁあ~っありっがぅおざぃまずぅうぅ」
男の腹に突き刺さっていた義腕をスルリと抜き取り、心配そうに見つめていたナナイナに手渡してやる。受け取った彼女はといえば堰を切ったように大粒の涙をボロボロと流しながら義腕を抱き締めている……汚れるよ?
引き抜いたついでに義腕にくっついていた血やら謎肉やらは綺麗に除いたから大丈夫だと思うけど。
(それはそうと、どうしたもんかなぁ)
美少女が嬉しそうに千切れた腕に頬擦りをしている猟奇的な現場を眺める一方で俺は少しばかりテンションが下がっていた。ん?いや、もちろんナナイナに引いてるわけじゃない。そんなことあるもんかい。
むしろ、ボロボロの様子から察するにかなり酷い目に合っただろうナナイナが意外と元気そうなことにほっとしているくらいだ。ただ、やっぱりこの胸の奥に広がるモヤモヤを放置しとく訳にもいかないのがなんとも……正直、億劫過ぎる。
自分でも億劫を先送りにしてる自覚はあるので、自然と視線がナナイナから逃げるように空を仰いだのがなんとも情けない。
見上げた先には純白の天井があった。見渡す限りに端はなく馬鹿みたいに広い。だのに、何処にも継ぎ接ぎはない上に支える柱すらもない。更に目立った照明もない癖に昼間のように明るいそれは正に神秘的という表現が相応しいだろう。
【夢の工房】
俺が名付けたこの空間は、思い描く古今東西ありとあらゆる有機物から無機物まで空想妄想どんな物でも出現させられる正に夢の空間だ。あの天井も神秘的だなんだと格好つけてみたけど、所詮は俺の想像の産物だ。
「ちょっと眩しいから、光量少なめで。」
俺の一声でふっと優しい光に包まれるそんな【夢の工房】にナナイナと一緒にやってきたのは、もちろん男の腹にぶっさり見事に突き刺さった義腕を抜くためだ。ちょうど肘の部分が引っ掛かっていたのか工房の外ではどんなに力を入れても、うんともすんとも全く抜ける気配がなかった義腕もここならご覧の通りぬゅるりである。
よしよし後は義腕の調子を確認したら、問題解決だ。
後は朝までナナイナと和気藹々と小粋なお喋りをするんだ。フー。
「なんて、できたらどんなにいいか。はぁ。」
そりゃあ溜め息も出る。おかしい。俺はここに趣味で楽しむために来ているはずなのになんでこんな気持ちにならなければならないのでしょう。
ぶっちゃけ義腕の回収は些細な問題で、このモヤモヤ解消に挑むのが嫌で時間稼ぎをしているに過ぎない…こればっかりは夢の工房でもどうにもならない…こともない…うん、なんとかなるかも…う~ん…無理か…
「あの女千切れた自分の腕を抱いて喜んでやがるのか?気味悪ぃ」
「それは聞き捨てならない」
後ろから不意に聞こえた声につい条件反射的に答える。
視線を向けると、小汚ない男達がびくりと震えた。
「まさか今のってうちの可愛いナナイナのことじゃないよな?」
「そ、その女以外に誰がいるってんだ!!てめぇもこんなことしてタダで済むと…」
「黙っててもらえる?」
空中で指をくるりと回す。
「「「なっ、ひぃんが!?」」」
確かに、君たちの心境を察しないでもないさ。
突然現れた奴が仲間の腹に片腕を残したまま、青白い炎を溢しながら平然としている、なんてホラーをもし俺が夜中に見たら漏らす自信があるし、気味悪がる気持ちも分かる。
ただ、それが美少女なら話が別だろうに。
腕、大丈夫ですか?くらい言えない?
「ふごっ!?あがが!?」
まぁ、それが無理だとしてもナナイナの悪口はないわ。本当ならその程度で済ませないけど、今日のところは諸々の事情でそのくらいで勘弁してやらぁ。
床から現れた猿轡&目隠し付きの十字架に固定された3人の男は必死に暴れて逃れようとしているけれど、残念ながらそんなことで抜けられるほど柔な作りじゃないのだよ。ふはは、馬鹿め。
木材に見えるだろ?残念!それは鋼鉄製なんだなこれが。
木材と見間違う色合いで着色しつつ、木目模様の細かさにも拘った一品。しかも今回は拘束だけに特化した安全仕様だけど、もちろん拷問用にカスタマイズも可能!更に更に、三位一体で合体した姿は泣く子も絶句する禍々しさを…。
「なんて、いつまでも現実逃避してても始まらない。」
こんなおっさん達を弄んで楽しい訳がない。
諦めて億劫の元となっている場所に視線を向ける。
「改めて見たら、こりゃ酷いな」
そこにはピクリとも動かない2人の死体が寝かされていた。
1人は胸に深くナイフが突き刺さり、もう1人は義腕が突き刺さっていた腹を中心にぐっちゃぐちゃだ。それを誰がやったかかなんて言うまでもない。
「ナナイナ?」
「は、い」
呼び掛けると、ナナイナのか細い返事がすぐ横でした。
いつの間に、と脇を見れば義腕を抱えたナナイナが申し訳なさそうな顔で俺を見上げていた。
「あの、コウメイ様、義腕が、その…動かないの…壊しちゃった、かな」
「あー、かなり無理な使い方したろう?すぐに直すから大丈夫。」
そう聞いたナナイナの不安げな顔はすぐに喜色に変わるが、それが余計に胸を締め付ける。ただ、いい加減いつまでもうだうだしてらんない。覚悟を決めよう。
「それよりも、だ。ナナイナに1つ言わなきゃいかんことがある。」
「え…言わなきゃいけないって…あのコウメイ様、怒ってる?私、えっと…あ、もしかして、その、殺しちゃうのはやり過ぎだったって、…でも、その、それ以外にどうしていいのか、あの…分かんなくて…、ごめんなさい…」
義腕に夢中だったナナイナも、流石に俺が男3人を張り付けにした上でその仲間の死体を眺めていれば何か察する所があったのだろう。名前を呼んだ俺の声色も普段よりだいぶ低かったのもあるはずだ。
上目遣いでしどろもどろに答えるナナイナ。
その瞳は許しを乞う小型犬のように潤んでいた。
しかも俺が上から見下ろす形になってるから、未だに破れたままの服の隙間からは褐色の肌が覗き…違う違うあかんあかん。
今はそういうんじゃない。
緩みそうになる頬筋に力を込める。
そして、大きく息を吸い込む。
「俺が言いたいのは1つだけ。どうして最初から本気を出さなかったんだ?」
「え?」
俺の言葉にナナイナの瞳が大きく揺れた。
胸がズキリと痛む。
やっぱりダメ。向いてない。
本当は戦う美少女になって欲しいなんてふざけた願いを俺の指示がなくても全うしようとしたナナイナを誉めて誉めて誉めちぎりたい。
でも、今回の事はどうしても叱らなくちゃいけない。
「戦う美少女として、戦うことに対して手を抜くことを俺は許す訳にはいかないよ。」
なぜならそれは彼女を買った俺の責任だから。
◆
人を叱るのは苦手だ。
「君は社会人として自覚が足りないな。考え方が甘いんだよ。いつまでも学生気分じゃ困るんだ。」
「はぁ、すいません」
なんでってそりゃあ、そもそも自分が誰かを叱れるようなできた人間とは思わないから。誰かを叱れる人は凄いと思う。色んな意味で。
「また主任があの娘のこと怒ってるわ。まだ入ってきたばっかりなんだからあんなにガミガミ言わなくてもいいのにねぇ。」
「本当にやぁねぇ。きっと家でもあぁなのよ。」
しかも相手のことを想って叱ったら叱ったらで今度は陰で悪口を言われたりするときたもんだ。どういうわけか叱る人間ってのは嫌われるらしい。叱った相手だけならまだしもそれ以外の人間にもだ。誰が好き好んで嫌われたいなんて思うもんか。上司という立場だから仕方ない?なら出世なんかするもんじゃない。
「ですよねー。私なんてまだ1年目ですよ?そんなすぐに社会人になれるわけと思いません?ねぇ、先輩?」
「……徐々に慣れていけばいいんじゃない。」
「ですよねー」
更に理不尽なことにそんなリスクを負ってまで叱ったとしても、意味があるかどうかは相手次第ときたもんだ。効果がなければ全く意味がない。だから、1年目だろうが10年目だろうが給料もらってるんだから仕事の良し悪しは別にしても社会人の自覚は必要に決まってるだろ、なんて言っても仕方がないから適当に同意しとくのが正解だ。
「主任、私、どうしたら…」
「だからいつまでも学生気分じゃ駄目って言っただろ?」
「はい…」
それにどれだけ叱って、叱られようが働いてれば大きなミスの1つや2つはするもんだ。人は口で言われてもピンとはこないから、結局、実体験か誰かのミスを目の当たりにして自ずと成長するしかない。ほっとけばいい。
やっぱり人を叱るのは苦手だ。
自分はできた人間じゃない。相手に改めさせられるほど口も上手くない。嫌われたくもない。意味がないこともしたくないし、目立ちたくもない。
ましてや楽しむために趣味で来ている異世界でそんなこと本当にやりたくない。絶対に。
◆
と、思ってたんどけど。本当に胃が痛い。
「どうして最初から本気を出さなかったんだ?」
叱ることに意味がないとは言わない。
その労力や生まれる軋轢、負うリスクに対して割に合わないという話だ。
ましてや叱った結果、ナナイナに嫌われたら立ち直れない。これが本音かもしれない。
ただ、それはあっちの世界での話だ。
価値観が違うこの異世界でのミスは「次から気を付ければいっか」で済むことはない、かもしれない。一度の失敗の先に待ってるのは目の前の男達のような末路かもしれないんだ。
ただ叱るだけでナナイナがそうならない可能性があるなら、嫌だやりたくないとは言ってられない。
本当はそんな最悪の事態になっても構わない、どうでもいいだろうと奴隷を買ったはずなんだけどなぁ。
「相手を侮って手を抜くからそんな酷い怪我をするんだ。初めての戦闘で準備もなかったとはいえ、これからずっとそんなことしてたら次に"こうなる"のはナナイナかもしれない。分かるだろ?」
「手を抜いて、は、えっと…その、私…」
「言い訳はいらないんだ」
「ぅ、はい、ごめんなさい…」
ナナイナは奴隷だ。これまできっと酷い扱いを受けてきたに違いない。
それが急に戦って欲しい、戦っていいなんて言われたら今回のように相手を弄んでから殺そうとしてもおかしくはない。そんな娘には見えないが、心の中なんて誰にも分からない。
その油断を放ってはおけない。例え、嫌でも言うことは言わなくてはいけない。それにナナイナの事が心配だってのはあるけれど、何よりもその戦い方は俺の理想とする戦う美少女と違う。
「謝れば済む話じゃないんだ。俺はどうしてって聞いてるだろ?」
「あ、え、その、ごめんなさ…じゃなくて、なんで…えっとか…私、どうしてもあいつら許せなくて、だから…えっとその…」
分かってる。ナナイナ。
そりゃあ、人間が憎いだろう。
だけど、君を間違った道へは進ませはしない。
それが君を買った俺の責任なんだから。
そうだろ……ふむ、ん?なになに……ん?
「確認だ、いや、確認させてください。ナナイナさん。外に出られないのを、貴女様が逃げないようにしていると思われた。そうですね?」
「まぁ…そうかな。」
「なるほどなるほど。だから、信用を勝ち取ろうと無茶をしたと。しかも、俺の悪口を言ってたこいつらを許せなかったと?そうおっしゃる?」
「うん、まぁ、おっしゃるかも。」
ふむ、良く分かった。
「俺のせいじゃないか!」
「ちょ、コウメイ様止めてって!?コウメイ様は悪くないから!私!私が悪いの!」
本当に?
事情があったとはいえ、ナナイナが外に出られないようにしてあった上にその理由も伝えなかった俺が悪くないかな?実はこの男共がここに来ることを知っていた俺が悪くないかな?
「そんなことあるかい!本当にすまんかった!」
「分かった。分かったからその土下座?やめよ?こっちがすっごく悪い気分になるから。じゃあ、こうしよ?お互いに悪かったって!ね?」
おいおいおいおい、女神かよ。ここにおわすのは。
違う意味で頭を下げるのが正しいよ。
「ってそうは言われてもなぁ…一方的にナナイナが悪いって決めつけて、流石に偉そう過ぎだろう。事情を話せって言った癖に、言い訳するなって何様だ。だから叱るなんて慣れないことしたくないんだ。」
「え?そう?叱ってくれるの悪くないけど。心配してくれてるかなって嬉しいし。あ、でももしごめんって思ってくれてるならこれくらいは貰っちゃおうかな?」
地に頭を付ける俺の背中にふっと心地よい重さが広がる。
何が起こったかは見なくても分かる。ナナイナの匂いにピクリと鼻腔が震えた。
「ナナイナさん?これはどちらかというと俺にとってご褒美なんだけど。」
「んー、じゃあ、しばらくこのままで。それなら私の方がお得でしょ?」
「どうしてそうなる……はぁ、こんなに俺に都合が良い話があっていいのかねぇ。」
「私はコウメイ様の奴隷でしょ?奴隷はご主人様にとって都合がいいもんなんだから正解なんじゃない?」
だとしたら、奴隷制度がない日本国が間違いだな。
サイコーだよ、奴隷がいる生活!
しばし、その温もりを味わっていると耳元で声がした。
「でも…手を抜いた訳じゃないんだけど、やっぱり私が悪かったよ。勘違いしちゃってたから。」
「勘違い?」
「うん。このコウメイ様の義腕って本当に凄いの。魔力を込めれば込めただけ強くなるでしょ?そんなズルしたら誰とも戦いにならないもん。それじゃあ戦う美しょ……にならないかなって。だから義腕にあんまり頼らないようにしたんだけど、気にせず本気出せば良かったんだよね。だから、勘違いしてたなって…でも、それだと私じゃなくてもいいかもだけど……でも、頑張る。」
お?ん?なんだって?
……もしかして勘違いしてたのは俺の方か?
「すまん、聞いてもいいか?これってナナイナがやったんじゃないのか?」
床に横たわる死体を指差す。
「私がやったけど?」
「いや、そうじゃなくて半炭鉱婦だっていうナナイナの素の力でやったんじゃないの?その義腕って生活使い用で戦闘用じゃないんだけど?」
「はえ?」
ナナイナの顔が固まる。
「生活用?戦闘用?え、でもこれも凄かったのに?戦闘用って、そんなの全力で使ったら…どうなるの?」
「いい勝負ができると思う。」
「いやっ!?誰とっ!?私何と戦う予定なのっ!?」
【ナナイナさんの勝手に質問コーナー】
服がボロボロだけど、恥ずかしくないのって?
………
恥ずかしくない、こともないけど…私ってば奴隷だったからねぇ。このくらいは慣れてるっちゃ慣れてる、かな?
でも、流石にまずいか。
というわけで、コウメイ様~服出して~って何で逃げるの!?待ってよ!
あ、ではっ!ナナイナでした。また次回!
ちょっと、コウメイ様ってばっ!!




