戻りたくない過去にサヨナラを
引き続き不定期更新ですが、お読み頂ければ幸いです。
では、本編どぞ
「さてどうしよっか。」
少し古ぼけた扉を前に頭を捻ってみるけど、外に出るためのいい考えは浮かんでこない。
たまに手を伸ばして扉に触れてみても、押す寸前で毛むくじゃらの手にがっしり腕を掴まれて扉は押せない。むっと、邪魔する相手を忌々しく睨んでみるけど、細長い顔に垂れた耳が特徴的な彼はキョトンと大きな瞳で私を見つめるだけだ。
「最初は不気味だったけど見慣れると可愛く…ってそうじゃないのよ。」
試しに無理矢理に押し通ってみてもいいんだけど、ここ数日の彼ら【コボルトくん】達との特訓でお互いの腕力は重々承知…勝ち目は薄いだろうなぁ。
「やっぱり何か方法を考えなきゃダメそう」
扉の上にくっついた時計を見ると、バラバラの動きをしていた3本の針がさっきよりも真上目指して集合している気がする。コウメイ様が帰って来るまであまり時間はなさそうだ。
ちなみにさっきまで真っ暗で何も見えなかった部屋はコボルトくんに持ってきて貰った蝋燭のおかげで時計もばっちり見える。外からは目立たない小さな光でもないよりは遥かにマシだ。
更にちなみにだけどコボルトくんが蝋燭を取りに行っている隙に外に出られるかもと思ったけど、扉に触れるや否やすかさず違うコボルトくんが腕を掴んで来た。やんなっちゃう。
「いっそコウメイ様が戻ってくるのを待ってもいい気がする」
私が外に出られないようにコボルトくんに言いつけたのはまず間違いなく、私とコボルトくんの主人であるコウメイ様だ。ならコウメイ様さえ戻ってくれば外に出られない問題は解決する。
……
「うん。でもやっぱりそれはなし。」
理由は1つ。
奴隷の私がコウメイ様の信用を勝ち取るためだ。
自分なりに何で家から出る事を止められてるんだろうって考えてみた。
そしたら、良い理由と良くない理由を思いついたんだけど「あれ?どっちにしても私って信用されてない!?」ってなってちょっと落ち込んだ。
けど、よく考えたら私達ってまだ出会って1日しか経ってない上に、5日間離れ離れだったから信用がないのも仕方ないかもって思い直すことにした。
奴隷身分の私にとって外の世界は何かと危ない。だから私がふらふらと外出しないようにコボルトくんに言いつけた。つまりコウメイ様が私を心配してくれたってのが良い理由…なんだけど、よく考えたらそれって私は何とも戦えないって言われてるのと一緒な訳で…心配してくれるのは嬉しいんだけど戦う事を望まれてる私としては微妙なところ。
じゃあ私が戦えるって信用してもらう方法なんて…決まってるでしょ?
それから、良くない理由は私が逃げるのを防ぐため。
もしこっちの理由が正解なら本当に落ち込んじゃう。
溜め息混じりにそっと首に触れると、本来は奴隷の証明であるはずの首輪がある場所にはなんとも頼りない物が巻かれているのが分かる。
【隷属呪具】
それは奴隷が巻かなければいけない特別製の首輪で、契約した主人と一定距離を離れると首輪を通して奴隷に苦痛を与える代物だ。そんな物を私達奴隷が着けなくちゃいけない理由はもちろん奴隷が逃げないため。
そもそも外れるような物じゃないし、主人も奴隷が逃げたり逆らったりしないように首輪を外そうとすることはない。奴隷が無理に外そうとすれば主人にその裏切りが分かる仕様になってるらしくて、罰として結局酷い目に会うから奴隷本人も外そうとはしない。
だから首輪を外すなんてありえないってのが常識だと思うんだけど、それを聞いたコウメイ様は
「よく聞くファンタジー仕様だけど、実際どうなってるんだろ?ちょっと貰ってもいい?」
と、あっさり私から首輪を外したっきり返してはくれなかった。
絶対に外せないはずの奴隷の首輪もコウメイ様の【夢の工房】の中じゃ形無しだった。首からそれがスルリと抜けた時は首が千切れて頭が外れたのかと思ってかなり焦った。
だから今の私の首に巻いてあるのは隷属呪具じゃない。
「えっと、外しちゃって良かったの?私、一応奴隷だし逃げるかもしれないのに。」
「え?あ…そっか。でも、離れたら苦痛を与えるって言われたら外すしかないから仕方ないんだよなぁ。俺たちって明日から5日間は離れ離れなんですわ。できれば逃げないで欲しいけど…でも、そうだな…奴隷の証明のために首輪を着けなきゃいけないなら……えっと、じゃあこれ着けてもらえる…物は試し…嘘だろ…想像以上に良い、だと。え?なんで首に巻くだけでセクシーさが増すの?」
と言って巻いてくれたのが、確か【チョーカー】とかいう装飾品だって言ってたかな?
首に何か巻いてれば大丈夫なのかはもはや私には分からない。
触れる指にこのまま力を込めればブチリと簡単に引き千切れてしまいそうな物が奴隷の首輪の代わりだなんて冗談みたい。まぁ、湯浴みをする時とか濡れたらいけないかなぁってこっそり外してるから千切る必要すらないんだけど。
あの時はちょっと何言ってるかは分からなかったけど、逃げないって信用されてるって嬉しかった…はずなんだけど、首輪が無くても外に出られない今の私の状況を思うと自信ない。
だって、コウメイ様は逃げないって信用してるように見せかけて実は逃げないようにしてた訳で…これが本当なら落ち込むよ、そりゃあ。
兎に角だ。
外に出るのが危ないから閉じ込められてるとしたら、それは私が戦うことへの信頼が無いって事で、逃げ出すかもって閉じ込められてるなら、私自身のことを信用してないってことでしょ?
これは良くない。どっちにしろ良くないよ。
「一人で外に出ても逃げ出さない。その上、あの連中をやっつけたら戦えるってことだから、どっちの場合でも信用が勝ち取れる。」
ね?完璧でしょ。我ながらよく考えたもん。
だから可能ならコウメイ様が帰って来る前になんとかしたい。
コウメイ様に外に出してもらった上でコウメイ様の力を借りて敵を倒しても意味がない。
「でもそのためには問題が1つ。いや一応、2つかな。」
1つ目はもちろんここから出る方法だ。
そして、もうひとつは。
「ねぇ、まだいる?」
「(こくり)」
頷くコボルトくんに安心した気持ちと疑問が湧いてくる。
安心感は、倒すべき存在があれから無理矢理に家の中に押し入って来ずに、未だに外にいてくれている事だ。もし中に入ってきたら、コウメイ様に任されているこの家を戦闘でぐちゃぐちゃにする訳にはいかないから、コボルトくん達に手を借りてすぐに制圧することになるだろう。
それじゃあ、私が活躍できない。
分からないのは、なんでそれをしないんだろう、ってこと。
正直、無理に入ってこない理由が分からない。たぶんだけど、あいつらは私が中にいることを知らないはず。コウメイ様もいない。つまり家主が居ない今なら強盗でも何でもし放題なのに…不思議。
もしかしたら悪い人間じゃないかもしれない、とも考えたけど、それなら家主が不在なら立ち去るなりしそうだ。それもしないで座ってるってことは、まるでコウメイ様が出てくるのを待ってるみたい。
もし、コウメイ様に会いたいなら何もわざわざこんなタイミングじゃなくても良さそう。昼間の散歩中とか、買い物中とか、色々あるだろう。こんな真夜中に訪ねてくるなんてやっぱり怪しい。
「まっ、結局あいつらの正体なんていくら考えても分かんないし、直接聞いたらいいよってね。何にしろ、あそこに留まってくれてるのは私としては望むところ。後は外にさえ、出られればなんだけど。」
色々考えてはみても、コボルトくん達を何とかしない限りはこのまま座ってコウメイ様を待つしかなくなる。
「う~ん。コボルトくん達に邪魔されずに外に出られる方法か…もしくは私が行けるに場所に来てもらうとか……室内は戦えないし、外は出られないし…戦っても大丈夫で、…室内でも、外でもない場所なんて、……そんなとこあるわけ……あ…そうだ!あるかも!」
思わず立ち上がった拍子にぶつかったコボルトくんがコロリと転ぶ。
『バゥ…』
「あっと、ごめんね?でもほら、寝てないで"お願い"聞いて。今すぐに皆を集めて来て。大至急だからね。私のこと邪魔してるんだしそのくらいは協力してよ?集合場所は…」
◆◇◆
「こりゃあダメだ。」
私は天井を見つめ、がっかりしていた。
外に出る必要がなく、かつ戦っても問題ない上に私が行ける室内でも室外でもないような場所。そんな謎掛けみたいな場所の存在を思い付いた時は私って凄くない?なんて思ったけど現実はそう上手くはいかなかった。
答えは【地下練習場】。
四方をタイルで囲まれた室内でありつつ、家の外部にあるここは室外とも言える。しかも、ここはそもそも私が戦う練習のために作られた場所だから私はもちろん入れるし、ボロボロになることを心配する必要もない。
場所としては完璧だった。
後は外の連中にここに来てもらえば問題解決だ。
でも、家の中を通って、私と同じように階段でここに来てもらう訳にはいかない。大人しく私に着いてきてもくれないだろう。
じゃあ、どうする?
「よし、落としちゃえ」
何故か連中は家の入り口付近にずっと居座ってる。
だったらその場所へ向かって、この地下練習場から上に穴を掘っていけば、突然、真下に空いた穴に連中ら転がり落ちてここまで来るはず。
穴を開けるのもこの広い地下練習場を1日足らずで完成させたというコボルトくん達ならすぐだ。うん完璧。
と、思ったんだけど。
「失敗したなぁ」
今まさに外の連中の足元、私からすると天井をコボルトくん達に掘ってもらってるんだけど、これがもうすーっごく効率が悪い。穴を下に掘るのと真上に掘るのはかなり勝手が違うみたい。そりゃあそうか。気づかなかった私が悪いよ。
掘った分だけの土がコボルトくんの顔に掛かってて目を開けるのも辛そうだ。
それに天井まで手を届けるために、コボルトくん達が団子みたいに固まってできた足場の上に数匹が乗って穴を掘ってるから、コボルト達はたくさんいるのに実際に穴掘り作業に徹しているのは数匹だ。
しかもモコモコの足場は相当に頼りないらしく、上の子達は足を押さえてはもらってるけど、ずっとグラグラ揺れている。
「う~ん」
降ってくる土にも負けずに懸命に穴を掘る様子を眺めていたけど、これはすぐに終わるとは思えない。いつかは終わるだろうけど、流石にコウメイ様が帰って来るまでには難しいだろう。
「これは悔しいけどお手上げかな。流石に可哀想だし。」
お互いの身体が動かないように固定しあっているから皆、降ってくる土からは逃げられずにどんどん泥団子みたいになっている。
そんなコボルトくん達に解散、の声を掛けるために立ち上がる。
「みんなー、動けるように隣の子から手を離し……さないようにじっとしててね。絶対だよ。」
そーっと、手近にあった練習用の武器を拾い、ゆっくりと後ろに下がる。
焦らず騒がず慎重に下がって下がって下がって、と。
そして、一呼吸。
「皆、ごめんね?」
背中が壁に触れたところで振り返り、元の階へと階段を駆け上がる。
階段の下の方から『バゥワウバゥワウ』と鳴き声が上がってくる。
たぶん私が外に向かった事に気がついたコボルトくん達と、それに気づかずにお互いの身体を押さえておくようにお願いしたコボルトくん達が揉めているんだろう。
その様子を見たい気持ちを押し留めつつ、一階の倉庫にもちろん一番乗りで辿り着く。
ガチャン
あとは地下練習場への入り口に鍵を掛けちゃえばしばらくコボルトくん達も出てこれないだろう。
「ふふ、出し抜いてやったよ。」
念のために入り口の上から適当に物を置いちゃえ。
「これじゃあまるで私の方が悪者みたいだね……ふぅ、よし。行こっか。」
ちょっぴりの達成感を長い息と一緒に吐き出し、拳を握る。
――熱はすっかり落ち着いていた。
でも、消えた訳じゃない。
燻っていた火種に過去の恐怖と怒りと憎しみをくべる。
チカチカと白熱する感情に呼応するように体温が上がるのが分かる。
でも、今の私にはまだ足りない。全然足りない。
「……貴方に認めて欲しい。私を信じて欲しい。ずっと傍にいさせて欲しい。だから、私は戦うよ。」
身体の熱だけを残して、思考は冷静さを取り戻していく。
ここまでは前哨戦でもなんでもない。
◆◇◆
「ねぇ、あなた達って……悪者?」
「はぁ?てめぇこそ誰だ?」
そう、本番はここからだ。
【ナナイナさんの勝手に質問コーナー】
コボルトくんは何匹いるのかって?
掃除係、お風呂係、電子レンジ係、特訓係、それぞれいるんだけど……ちょっと分からないかな。とりあえずたっくさん。ちなみに大きさもそれぞれ違うから慣れてくれば誰がどれか…分かるかも?
ではではナナイナでした。また次回!




