週末のプロローグ『絶望の日々』
ブックマークのみならず評価まで頂いたことに調子に乗って柄にもなく連日投稿です。
これにて長くなりました週末のプロローグ編は終了になります。また、次からヒロインも登場しますので今後ともよろしくです。
では本編どぞ!
ピピピピピピ、ピピピピピピ、ピピピピピピ、ピピピ····
「ん」
聞き慣れた、しかし聞き続けるには不愉快な音が耳に響く。
「ん"ーーー」
その音を頼りに手探りに原因を探す。
目を凝らすが、ぼやけた視界は未だに焦点が合わず全然頼りにならない。
ピピピピピピ、ピピピピ。
「ん」
腕が虚空を何往復かしたところでようやく硬い物が手に触れる。
その拍子に不愉快な音は止まる。
「何……こ、こ、どこ?」
喧しい音が止み、静かになった所でもう一度意識を手放したい思いがふつふつと沸いてくる。だが"何か"がそうすることを妨げるので、仕方なく電源の切れていた脳ミソを起動し始める。ぼやぼやの目の焦点も徐々に合ってきた。
手に触れた硬い物を握れば馴染んだ形だ。
あぁ、なるほどと、目の前に持ってくるとやはりど合点が行く。
それは手頃な重さでちょうど手のひらサイズで四角く、薄い。俺の相棒。
スマホだ。
さっきの音は予め平日の朝に鳴るようにセットしてあった目覚まし代わりのアラーム音、だったらしい。どうりで聞き覚えがある訳だ。
画面を見る。
目映いブルーライトが目に毒だ。
┏ ┓
Mon 6:30
┗ ┛
「6:30、か。」
ゆっくりと身体を起こすと、パキリと関節が鳴る。
凝り固まった身体を解すために腕を上に背伸びをしつつ、辺りを見回せばそこは見慣れた、そして住み慣れた自分の部屋だった。
ただ、起きてすぐの景色はいつもと違っていた。
その理由も自分の周りを見ればすぐに分かった。
「しまった。ベッドまで辿り着けずにソファで寝落ちしたのか。昨日はどうしたんだっけか。」
昨日は、確か。えっと…そうだ。
仕事終わりの金曜日。
帰宅してすぐに風呂に入ればいいものを明日は休みと自堕落けて、ソファの上でネット小説を読んでいたんだった。その後の記憶がない、ということはそのまま寝てしまったらしい。
「あ、夢」
そういえばさっきまで見ていた夢。
その内容も徐々に思い出してきた。
何でも思い通りになる【白い部屋】の夢だ。
想像した物が何でも思い通りになる正に夢のような空間で目覚める夢だ。
理想の女性達を想像して楽しんだり、寝る前に読んでいたラノベに感化されて異世界ファンタジーの世界へ行ってみたいと願う夢。
そうして現れた異世界へと続く扉は間違いなく異世界へと通じていた。
ただ【夢の部屋】から出た異世界では全然、思い通りにいかなくて命の危機を感じる。
『この世界は夢じゃない現実の世界かもしれない』
最終的にそう思い始めるが、めげずに頑張ろうぜ!って。
そんな内容だった。
「……ははっ、何がこの世界で俺はサイキョーだよ。あー、可笑しい。」
目が覚めてみれば、なんてことはない自室のソファの上。
どうやら、夢が覚めないと悩まされたのも、夢の演出だったらしい。
我ながら子供っぽい下らない夢を見たもんだ。
夢なんて自分に都合のいい夢もあれば、都合の悪い夢を見ることもある。なんでも思い通りになる楽しい夢の最中に、その逆の夢を見るのもまた然り。
怖い夢や驚くような夢、それこそ今回のように全然、夢から覚めないなんて夢もあってもおかしくない。目覚めた今となっては夢の中の良かった事も悪かった事も結局のところ全て夢だったで片付いてしまうから本当に可笑しい。
「…とはいえ、うたた寝にしては寝すぎたな。確か、最後に時計を見たのが23時頃だったから7時間以上も!?うへぇ、もう、そりゃあうたた寝じゃないわ。はぁ、まぁ、いいや。今日は土曜日だし今からシャワー浴びて、溜まった洗濯物でもしよう……うん?」
あれ?
でも……何か違和感がある。
なんだ?
........
....
..
「あ!まさか、これもさっきの夢の続きとか!?」
異世界すらも創り出す夢の世界がこの狭いワンルームを造り出せない訳がない。
(そう思うとそんな気がしてきた。)
それこそ扉を開けた先が異世界だったように、何かの拍子に俺の部屋に似た空間に移動したんじゃないだろうか。何故なら俺は何度も、何度も何度も、覚めない夢よ覚めてくれ。自分の部屋に帰りたいと願っていたのだから。
「朝飯出てこい!」
すかさず辺りを見回す。
――がどこからともなく朝飯がやってくる、ということはなさそうだ。
「出てこないか。でも、【夢の部屋】の外じゃ思い通りにならないのはさっきの夢と同じだし。何か他に確認する方法はないかね?」
そう思ってキョロキョロと部屋の中を探すとテレビが目に入った。
「あ、そうだ。朝のニュースとかやってるかな。」
ニュースを見れば何かきっかけを掴めるかもしれない。
ピッ
『おはようございます。今日は週末の雨が嘘のように快晴になる予報です。朝と昼の寒暖差が大きくなりそうで、どんな格好で出掛けるか悩んでしまいます。視聴者の皆さんも体調には十分に気をつけてください。では、今週も1週間頑張りましょう!』
「ふ~ん快晴…………ん?え……はぁっ!?」
天気予報を告げるアナウンサーの何の変哲もない挨拶に耳を疑う。
それはまるでこれから1週間が始まるかのような挨拶。おかしい。だって今日は土曜日。
「あっ!?」
慌ててスマホを探す。
そうだ。
起きてすぐの違和感の正体が分かった。
スマホのアラームだ。
平日に鳴るように設定してあったアラーム。
土曜日に鳴るのはおかしい。
そう今日が土曜日なら。
ソファの側に置いてあったスマホの画面を見る。
┏ ┓
Mon 6:45
┗ ┛
「ちょっまんでぇーーーー!?」
◇◆◇◆◇
「こ、今週は本当に散々だった。」
最悪、それが今週を言い表すには最適だろう。
社会人生活で最も辛い一週間だったといって過言でない。
ちなみに今日は金曜日だ。
あの出来事から1週間経った。
本当に今週は酷かった。
もう一度言おう。
最悪だった。
◇
月曜日の朝に目覚めた俺はそれはもう大急ぎで準備した。
シャワーを浴び、着替え、Go!
この間、実に約15分。
普段、起きてから朝飯食って出掛けるだけに1時間くらいかけている俺からすれば人間やればできると感心したものだ。
まぁ、この日は意外と体調もばっちりで狐に摘ままれた気分ではあったが、普通に業務をこなした。何せがっつり50時間も寝たからな。
寝起きドッキリも成功したおかげで頭も冴え渡っていた。
ただ、良かったのはここまで。
地獄が始まったのはその日の夜だ。
「またあの夢を見たらどうしよう。」
もちろんそれは白い部屋の夢のことだ。
何でも思い通りになったりならなかったりする不思議な長い夢。そう本当に長い夢だ。
ぶっちゃけ、内容なんてどうでもいい。
肝要なのはあの夢の間は起きようと何度思っても目覚めることはなく、結果的に金曜日の深夜から月曜日の朝まで約50時間近く寝ていたという事実だ。
では、もし仮に今すぐ寝る、つまり月曜日の夜からその夢を見始めたとしよう。
――目覚めたら単純計算で木曜日の朝だ。
つまり無断欠勤連続2日が確定だ。
クビになるわ、そんなもん。かといって急に休みも取れない。
「こんなことならいっそあのまま異世界で2度と目覚めない方が幸せだった」と何度考えたことか。
そんなことを考えていたら月曜日は一睡もできなかった。
朝日が昇るのにほっとした半分残念半分。できることならマジで異世界に逃げ出したかった。
そんな状態で火曜日の仕事に行くのは辛かったが何とか乗りきった。翌日の水曜日もなんとか寝まいと頑張ったがちょこちょこと意識が飛ぶ時間があり、目を覚ます度に慌てて日付を確認する、を繰り返す。
「明日は休め。」
木曜日に俺にそう告げた上司にはさぞや俺の顔が酷く見えたのだろう。さすがに寝不足で休ませてください、と言えなかった俺にとってその一言は救いであったと言わざるを得ない
俺はあんたに一生ついていくぜ!と心に決めた瞬間だった。
あんたが女神に見えたよ。いつも心の中でハゲ呼ばわりしてたのを許して欲しい。
ともあれ、そのおかげでようやく木曜日の夜には寝ることができた。木曜日から例の夢を見始めても起きるのは日曜日。最悪、月曜日の朝には目を覚ませるだろうと、考えたからだ。
とはいえ、眠りにつく瞬間までおっかなびっくりではあった。
そして目を覚ました瞬間に確認したスマホの画面に『Fry』の3文字が並んでいたのを見た瞬間にどれだけ安心したことか。
そのまま、ほっとしたままの勢いで夕方まで2度寝してやった。
そして、その日の夜。つまり金曜日の夜だ。
先週、あの夢を見てからちょうど1週間が経った。
という場面に戻ってくるわけだ。
前述の通り、月曜日~金曜日まであの白い部屋の夢は見ていない。このままあの夢を見ることもなく何も起こらなければ先週はたまたま50時間睡眠しただけ。めっちゃ疲れてた。と自分を納得させられる。
だから頼む。
何も起こらないでくれ。カムバック俺の平穏な日常。
そう願いながら、スマホの画面を見つめる。
23:50
あと少し
23:55
もう日付が変わる
23:59
あと、1分
00:00
よし!なにも…………
◇
目が覚める。
いや、正確には目覚めていない。
意識を取り戻した、という表現が正確かもしれない。
辺りを見ればそこはいつもの自分の部屋ではない。
先週、いや、今週ずっと思い悩んだ白い部屋の中だった。
「どうか月曜日には目覚めますように。」
神様に祈るしかなかった。




